・・・これなどは思い切って切り詰め、年代いじりなどは抜きにして綱領だけに止めたい。特に古い時代の歴史などはずいぶん抜かしてしまっても吾人の生活に大した影響はない。私は学生がアレキサンダー大王その外何ダースかの征服者の事を少しも知らなくても、大した・・・ 寺田寅彦 「アインシュタインの教育観」
・・・ 進むに従って両岸の景色が何となく荒涼に峻険になって来るのが感ぜられた。崖の崩れた生ま生ましい痕が現わになり渓流の中にも危岩が聳え立って奔流を苛立たせている処もある。 大きな崖崩れで道路のこわれたあとがもう荒まし修繕が出来ていた。そ・・・ 寺田寅彦 「雨の上高地」
・・・グリーンランドのどの辺を舞台にしたものか不明なのが遺憾ではあるが、とにかく先ず極地の夏のフィヨルドの景色の荒涼な美しさだけでも、普通の動かない写真では到底見られぬ真実味をもって観客に迫ってくるようである。それからまた、この映画の中に描写され・・・ 寺田寅彦 「映画雑感6[#「6」はローマ数字、1-13-26]」
・・・それからの後の場面で荒涼たる大雪原を渡ってくるトナカイの大群の実写は、あれは実に驚くべき傑作である。理屈なし説明なしに端的にすべての人の心を奪う種類のフィルムであり、活動映画というものの独自な領域を鮮明に主張したものである。絵ではもちろんの・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・ピンヘッドとかサンライズとか、その後にはまたサンライトというような香料入りの両切紙巻が流行し出して今のバットやチェリーの先駆者となった。そのうちのどれだっかた東京の名妓の写真が一枚ずつ紙函に入れてあって、ぽん太とかおつまとかいう名前が田舎の・・・ 寺田寅彦 「喫煙四十年」
・・・昭和六年の元旦のちょうど昼ごろに、麻布の親類から浅草の親類へ回る道順で銀座を通って見たときの事である。荒涼、陰惨、ディスマル、トロストロース、あらゆる有り合わせの形容詞の総ざらえをしても間に合わない光景である。いつもは美しく飾り立てた小売り・・・ 寺田寅彦 「銀座アルプス」
・・・その絵の景色には、普通日本人の頭にある京都というものは少しも出ていなくて、例えばチベットかトルキスタンあたりのどこかにありそうな、荒涼な、陰惨な、そして乾き切った土地の高みの一角に、「屋根のある棺柩」とでも云いたいような建物がぽつぽつ並んで・・・ 寺田寅彦 「雑記(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・ 誰かも云ったように、砂漠と苦海の外には何もない荒涼落莫たるユダヤの地から必然的に一神教が生れた。しかし山川の美に富む西欧諸国に入り込んだ基督教は、表面は一神でありながら内実はいつの間にか多神教に変化した。同時にユダヤ人の後裔にとっての・・・ 寺田寅彦 「札幌まで」
・・・というから、何だと聞くと、蟹肉に辛い香料をいれてホットにしてあるから、それで「デヴィルド」だといって聞かされた。このワシントンの「熱波」の記憶にはこのデヴィルド・クラブとあのニグロの顔とが必ずクローズアップに映出されるのである。用事をすませ・・・ 寺田寅彦 「夏」
・・・それには古人が残してくれた色々な香料や試薬も注いでみようと思っている。その鍋を火山の火にかけて一晩おいた後に一番鶏が鳴いたら蓋をとってみようと思っている。 蓋を取ったら何が出るだろう。おそらく何も変った物は出ないだろう。始めに入れておい・・・ 寺田寅彦 「厄年と etc.」
出典:青空文庫