・・・おハガキ頂きませば『仰日』の御礼のこころとしてお送りいたしますが―― わたくしはふとっていて、作品を通しての夫人はほっそりと小柄なお方のように思えます。よろしくおつたえ下さい。夫人はどんな本をおこのみでしょうか。〔一九五一年二月〕・・・ 宮本百合子 「歌集『仰日』の著者に」
・・・それは阿部権兵衛が殉死者遺族の一人として、席順によって妙解院殿の位牌の前に進んだとき、焼香をして退きしなに、脇差の小柄を抜き取って髻を押し切って、位牌の前に供えたことである。この場に詰めていた侍どもも、不意の出来事に驚きあきれて、茫然として・・・ 森鴎外 「阿部一族」
・・・今度は十六ばかりの小柄で目のくりくりしたのが来た。気性もはきはきしているらしい。これが石田の気に入った。 二三日置いてみて、石田はこれに極めた。比那古のもので、春というのだそうだ。男のような肥後詞を遣って、動作も活溌である。肌に琥珀色の・・・ 森鴎外 「鶏」
・・・東北なまりで、礼をのべる小柄な栖方の兄の頭の上の竹筒から、葛の花が垂れていた。句会に興味のなさそうなその兄は、間もなく、汽車の時間が切れるからと挨拶をして、誰より先に出ていった。「橙青き丘の別れや葛の花」 梶はすぐ初めの一句を手帖に・・・ 横光利一 「微笑」
出典:青空文庫