・・・流体力学の専門家はその古色蒼然たる基礎方程式を通してのみしか流体を見ないから、いつまでたってもその方程式に含まれていない種類の現象に目の明く日は来ない。 また物理学者は電子や原子の問題の追究に忙しくて、到底日常眼前の現象を省みる暇がない・・・ 寺田寅彦 「物理学圏外の物理的現象」
・・・こういうトピックスで逆毛立った高速度ジャズトーキーの世の中に、彼は一八五〇年代の学者の行なった古色蒼然たる実験を、あらゆる新しきものより新しいつもりで繰り返しているのであろう。そうして過去のベースを逆回りして未来のホームベースに到着する夢を・・・ 寺田寅彦 「野球時代」
・・・で古色蒼然としていて実に安い掘出し物だ。しかし為替が来なくっては本も買えん、少々閉口するな、そのうち来るだろうから心配する事も入るまい、……ゴンゴンゴンそら鳴った。第一の銅鑼だ、これから起きて仕度をすると第二の「ゴング」が鳴る。そこでノソノ・・・ 夏目漱石 「倫敦消息」
・・・奥に、朱塗の唐門があり、鍵の手に大雄宝殿――本堂となっている。古色を帯びた甃の上の柱廊を以て、護法堂その他の建物が連絡されている。総て朱塗だ、新に余り品質のよくない塗料で修繕した箇処もある。歴史的に古く、特別保護建造物となっているのだが、私・・・ 宮本百合子 「長崎の印象」
出典:青空文庫