・・・でには、どうにか文句ができるだろうくらいな、おうちゃくな根性ですましていたが、こうなってみると、いくら「候間」や「候段」や「乍憚御休神下され度」でこじつけていっても、どうにもこうにも、いかなくなってきた。二、三人目に僕の所へ来たおじいさんだ・・・ 芥川竜之介 「水の三日」
・・・「こじつけるねえ、酷いねえ。」「何のこじつけなもんですか。ほんとうですわねえ。ミリヤアドさん。」 ミリヤアドは莞爾として、「どうですか。ほほほ。」「あら、片贔屓を遊ばしてからに。」 と高津はわざとらしく怨じ顔なり。・・・ 泉鏡花 「誓之巻」
・・・動である、趣味というものの解釈説明が出来ない様に茶の湯は決して説明の出来ぬものである、香をたくというても香のかおりが文字の上に顕われない様な訳である、若し記述して面白い様な茶であったら、それはつまらぬこじつけ理窟か、駄洒落に極って居る、天候・・・ 伊藤左千夫 「茶の湯の手帳」
・・・これが文学の基調をなすとき、視野の狭さと、一面性と、必要以上のこじつけのため、著しくその芸術的価値を減殺する。「肉弾」は小説ではない。記録的なものである。日露戦争に弾丸の下に曝された一人の将校によって書かれた。そこには、旅順攻囲戦の戦慄・・・ 黒島伝治 「明治の戦争文学」
・・・ 下手なこじつけに過ぎないような気がするのである。それで私は、自分の思想の歴史をこれから書くに当って、そんな見えすいたこじつけだけはよそうと思っている。 私は「思想」という言葉にさえ反撥を感じる。まして「思想の発展」などという事にな・・・ 太宰治 「苦悩の年鑑」
・・・けれども、そのような失敗にさえ、なんとか理窟をこじつけて、上手につくろい、ちゃんとしたような理論を編み出し、苦肉の芝居なんか得々とやりそうだ。 ほんとうに私は、どれが本当の自分だかわからない。読む本がなくなって、真似するお手本がなん・・・ 太宰治 「女生徒」
・・・ まさか、こんなばかげた問答は起るまいが、けれどもこの場合の柿にしろ、窓にしろ、これこれだからこうだ、という、いわば二段論法的な、こじつけではないわけだ。皮肉や諷刺じゃないわけだ。そんないやらしい隠れた意味など、寸毫もないわけだ。柿は、・・・ 太宰治 「多頭蛇哲学」
・・・にもいろいろこじつけがあるが、「しき」と変えてみると、結局「すき」と同じでないかという疑いが起こる。 steak はアイスランディックの steik と親類らしいが「ひたきのおきな」の「ひたき」を「したき」となまると似て来るからおもしろ・・・ 寺田寅彦 「言葉の不思議」
・・・ こんなふうに虫やそれに類したものに対する毛ぎらいはどうやら一応の説明がこじつけられそうな気がするが、人と人との間に感じる毛ぎらいやまたいわゆるなんとなく虫が好く好かないの現象はなかなかこんな生やさしいこじつけは許さないであろう。ただも・・・ 寺田寅彦 「自由画稿」
・・・という問題が出た時、いろいろ考えたがよくわからず、結局何かだいぶ無理なこじつけを書いて出した。さて、その講評の日に、順次に他の問題について説明された後に、この半陰影の問題に移った。「諸君の中にこういうことを書いた人がある」と言って、自分の提・・・ 寺田寅彦 「田丸先生の追憶」
出典:青空文庫