・・・これはあるいは誇大の過言であるとしても、われわれは新聞の概念的社会記事から人間界自然界における新しき何物かを発見しうる見込みはほとんど皆無と言ってよい。しかるに一見なんでもないような市井の些事を写したニュース映画を見ているときに、われわれお・・・ 寺田寅彦 「ニュース映画と新聞記事」
・・・これは一見誇大な言明のようであるが実は必ずしも過言でないことはこの言葉の意味を深く玩味される読者にはおのずから明らかであろうと思われる。 こういう意味で自分は、俳句のほろびない限り日本はほろびないと思うものである。 付言・・・ 寺田寅彦 「俳句の精神」
・・・次にその対象の見方および取扱いの上に如何なる特徴があるかと考えてみると、その対象の形態的ないし心理的の現象の中である特別な部分を抽象してその部分を誇大しあるいは挙揚して表示するというのが一つの顕著な点である。例えば鼻の大きい人の鼻を普通の計・・・ 寺田寅彦 「漫画と科学」
・・・ このような種類の機微な吻合がしばしば繰り返されて、そしてその事が誇大視された結果としていわゆる厄年の説が生れたと見るべき理由が無いでもない。 ある柳の下にいつでも泥鰌が居るとは限らないが、ある柳の下に泥鰌の居りやすいような環境や条・・・ 寺田寅彦 「厄年と etc.」
・・・一例を挙ぐれば、現代一般の芸術に趣味なき点は金持も貧乏人もつまりは同じであるという事から、モオリスは世のいわゆる高尚優美なる紳士にして伊太利亜、埃及等を旅行して古代の文明に対する造詣深く、古美術の話とさえいえば人に劣らぬ熱心家でありながら、・・・ 永井荷風 「妾宅」
・・・その形と蘆荻の茂りとは、偶然わたくしの眼には仏蘭西の南部を流れるロオン河の急流に、古代の水道の断礎の立っている風景を憶い起させた。 来路を顧ると、大島町から砂町へつづく工場の建物と、人家の屋根とは、堤防と夕靄とに隠され、唯林立する煙突ば・・・ 永井荷風 「放水路」
世に伝うるマロリーの『アーサー物語』は簡浄素樸という点において珍重すべき書物ではあるが古代のものだから一部の小説として見ると散漫の譏は免がれぬ。まして材をその一局部に取って纏ったものを書こうとすると到底万事原著による訳には・・・ 夏目漱石 「薤露行」
・・・去の英雄豪傑は非常にえらい人のように見えて、自分より上の人は非常にえらくかつ古人が世の中に存在し得るという信仰があったため、また、一は所が隔たっていて目のあたり見なれぬために遠隔の地の人のことは非常に誇大して考えられたものである、今は交通が・・・ 夏目漱石 「教育と文芸」
・・・おそらく古代の聖徒の仕事だろう。三重吉は嘘を吐いたに違ない。 或日の事、書斎で例のごとくペンの音を立てて侘びしい事を書き連ねていると、ふと妙な音が耳に這入った。縁側でさらさら、さらさら云う。女が長い衣の裾を捌いているようにも受取られるが・・・ 夏目漱石 「文鳥」
・・・ 今日の世界的道義はキリスト教的なる博愛主義でもなく、又支那古代の所謂王道という如きものでもない。各国家民族が自己を越えて一つの世界的世界を形成すると云うことでなければならない、世界的世界の建築者となると云うことでなければならない。・・・ 西田幾多郎 「世界新秩序の原理」
出典:青空文庫