・・・な仕事を仕上げているちょうどその時期に、わざわざシナの古代の理想へ帰って行くという試みは、何と言っても時代錯誤のそしりをまぬかれないであろう。家康自身はかならずしも時代に逆行するつもりはなかったかもしれないが、彼の用いた羅山は明らかに保守的・・・ 和辻哲郎 「埋もれた日本」
・・・劇場的身ぶり、誇大したる表情は彼女に見いだすことはできない。彼女の顔には絶えまなく情熱が流れている、顔の外郭は静止しているけれども表情は刻々として変わって行く。しかもその刻々の表情が明瞭な完全な彫刻的表情なのである。言いかえれば彫刻の連続で・・・ 和辻哲郎 「エレオノラ・デュウゼ」
・・・と呼んだ。古代の赤煉瓦の壁の間に女神の白い裸身は死骸のごとく横たわっている。そうして千年の闇ののちに初めて光を、炬火の光を、ほのあかく全身に受ける。ヴイナスだ、プラキシテレスのヴイナスだ、と人々は有頂天になって叫ぶ。やがてヴイナスは徐々に、・・・ 和辻哲郎 「『偶像再興』序言」
・・・とともに歌舞伎芝居が誇大化しつつ一つの様式に作り上げたものである。ここでも我々は人間の自然的な肩の動作が、人形の動作の媒介によって歌舞伎の型にまで様式化せられて行ったことを見いだし得るであろう。 この種の例はなおいくらでもあげることがで・・・ 和辻哲郎 「文楽座の人形芝居」
出典:青空文庫