・・・からで、羊頭を掲げて狗肉を売る所なら、まア、豚の肉ぐらいにして、人間の口に入れられるものを作え度い、という極く小心な「正直」から刻苦するようになったんだ。翻訳になると、もう一倍輪をかけて斯ういう苦労がある。――その時はツルゲーネフに非常な尊・・・ 二葉亭四迷 「予が半生の懺悔」
・・・ 舞台の上の二人は、手を握ったまま、ふいっとおじぎをして、それから、「バラコック、バララゲ、ボラン、ボラン、ボラン」と変な歌を高く歌いながら、幕の中に引っ込んで行きました。 ボロン、ボロン、ボロロンと、どらが又鳴りました。 ・・・ 宮沢賢治 「ペンネンネンネンネン・ネネムの伝記」
・・・今日はさらに一歩すすめて、この複雑な諸条件はそのままで、いっそうの刻苦精励に向ってふるい立たされているのである。生活の新しい必要は、女に新たなたくましさを与えるであろう。新たな社会的な自覚をも与え、人間としての鍛錬をも加えるだろう。しかしそ・・・ 宮本百合子 「新しい婦人の職場と任務」
・・・の感じる、我に非ず、他人に非ざる愛に到達するまで、刻苦に刻苦することが目下の大切な、恐らく一生を通じての行なのです。 あらゆるものの本体を見得る叡智と渾一に成った愛こそ願わしいものです。 自分は、愛の深化ということは、最も箇性的な、・・・ 宮本百合子 「偶感一語」
・・・五十七歳の時のケーテの自画像には、しずかな老婦人の顔立のうちに、刻苦堅忍の表情と憐憫の表情と、何かを待ちかねているような思いが湛えられている。 晩年のケーテの作品のあるものには、シムボリックな手法がよみがえっている。が、そこには初期の作・・・ 宮本百合子 「ケーテ・コルヴィッツの画業」
・・・海面に張り出して、からりとした人民保養委員会のレストランなども見えているが、どういう訳か遊歩道には前にも後にも人が疎で、海から吹いて来る強い風に、コックの白上衣が繩につられてはためいている。 海沿いの公園では夾竹桃が真盛りであった。わき・・・ 宮本百合子 「石油の都バクーへ」
・・・白い上っぱりにコック帽の料理人、元気な婦人労働者たち、食事をしに来る勤労者のために玄関わきにひろい洗面所がある。料理場で働いている連中には、専用の浴室があった。 モスクワ市内にだけでもこういう理想的な厨房工場を、五つも六つも増設し、五ヵ・・・ 宮本百合子 「ソヴェト労働者の解放された生活」
どんなひとも、贅沢がいいことだと思っていないし、この数年間のように多数の人々が刻苦して暮しているのに、一部の人ばかりがますます金銭を湯水のようにつかう有様を目撃していれば、いい気持のしないのは自然だと思う。今度の贅沢品禁止・・・ 宮本百合子 「その先の問題」
・・・ 同志小林多喜二が、日本においてたぐいまれな国際的規模をもつ共産主義作家であったこと、同志小林が常に全力的であり、前進的であり、創作のために寸暇を惜んで刻苦したことは、彼に関する最も断片的な追想の中にさえ読まれた。 貧農の息子、搾取・・・ 宮本百合子 「同志小林の業績の評価に寄せて」
・・・この言葉は左翼運動の他の場面に働く人々の困難、刻苦に比べて作家は同じ世界観の下にあるとはいえ、その日常の暮しは小市民的な安らかさと物質の世俗的な豊かさの可能に置かれ、小説を書いておればいいのだからという、差別的な理解の上に言われた言葉であっ・・・ 宮本百合子 「ヒューマニズムへの道」
出典:青空文庫