・・・その甘ったるい夕方の夢のなかで、わたくしはまだあの茶いろななめらかな昆布の干された、イーハトーヴォの岩礁の間を小舟に乗って漕ぎまわっていました。俄かに舟がぐらぐらゆれ、何でも恐ろしくむかし風の竜が出てきて、わたくしははねとばされて岩に投げつ・・・ 宮沢賢治 「ポラーノの広場」
・・・各新聞の古風な商売仇的競争も、商品としての新聞の売行きのために激しく鼓舞され、記者たち一人一人の地位は、木鐸としての誇りある執筆者の立場から、大企業のサラリーマンに移って行った。記者その人々の存在は、社名入りの名刺とその旗を立てて走る自動車・・・ 宮本百合子 「明日への新聞」
・・・という悲しい諦めの心、或は、当時青野季吉によって鼓舞的に云われていた一つの理論「こんにちプロレタリア作家は、プロレタリア文学の根づよさに安んじて闊達自在の活動をする自信をもつべきである」という考えかたなどについて、作者は、ひとつ、ひとつ、そ・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第十一巻)」
・・・ 作品にその二つが調和して現れた場合、ひとは、ムシャ氏の頼もしさとは又違う種類の共鳴、鼓舞、人生のよりよき半面への渇仰を抱かせられたのだ。 彼は、学識と伝統的なセルフレストレーンの力で、先ずハートに感じるものを、頭の力で整理したと云・・・ 宮本百合子 「有島武郎の死によせて」
・・・ことによって得た経験が、亀のチャーリーの心持をプロレタリアとして、またアメリカ帝国主義の下で有色人種労働者として二重の搾取と抑圧とに闘っている日本人移民労働者としてのチャーリーの心持をどのくらい高め、鼓舞し、生きてゆく日常の世界観を変革した・・・ 宮本百合子 「一連の非プロレタリア的作品」
・・・あの晩、熱にうかされ、半分うわごとのようにドミトリーの名を呼んでいる彼女のわきに坐って、やさしく鼓舞してくれたのは、組織の古い働きてのソモフだった。「――ミーチャ……ミーチャ。どうしてそうミーチャがいるのかね。お前、人間じゃないのかい。・・・ 宮本百合子 「「インガ」」
・・・文学研究員は大衆を、壁新聞と工場新聞に向って動員し、生産経済計画達成に大衆の自発性を鼓舞する文学的実践を自身の文学的勉強とすべきだということになったのだ。 これは、完く正しい。そして「鎌と鎚」工場の文学研究会がこの集会で再組織をしよ・・・ 宮本百合子 「「鎌と鎚」工場の文学研究会」
・・・その偉力の美しさ、無限の鼓舞がそこにある。世代から世代へ渡る橋桁は人間の心のその光で目釘をうたれ鏤められていることを彼等は遂に見失わなかったのだ。 宮本百合子 「彼等は絶望しなかった」
・・・康な同情、人間より意志を理解しようとする良心の極少量さえも熱烈に要求しているのですから、私たちは野上さんが、若い時代の近側にあることで常に自身の芸術を生気あらしめると同時に、若い時代をその芸術によって鼓舞し、洞察力に刺戟を与えられることを切・・・ 宮本百合子 「含蓄ある歳月」
・・・種々な事を云っても、何をしても、結局、皆が真個に愛し合って、お互に鼓舞して、段々よりよい生活に入って行くことを望んで居るのじゃあ、ありませんこと? 其は私は若いから間抜けな事は沢山するでしょう。けれども、私の持って居るそう云う希望は、間・・・ 宮本百合子 「結婚問題に就て考慮する迄」
出典:青空文庫