・・・は止めるに止めかねる歴史の勢をはらんで、権力が人民に強いた不幸の根源に迫るものである。何故、運輸省は今日の殺人的交通事情を解決しかねているのであろうか。その答えが、余り集約的に、今日の日本の破局的な各方面の事情を反映していることに、解答者自・・・ 宮本百合子 「石を投ぐるもの」
・・・人間関係を大切に思い評価しあう心が根源をなしている友情で、それが異性の間にある場合、私たちはそれぞれのひとの配偶としての同性に対して、友の生きかたを尊敬する意味において十分鄭重であるのが自然だと思う。同性の友情が、常にその友の対手である異性・・・ 宮本百合子 「異性の間の友情」
・・・この世は辛いのでいいのだという金言みたいなのがのっている。 実にブルジョア地主が、好きで繰返す言葉だ。頁をくって見ると、『キング』の至るところにこの種類の金言がはめこまれている。「老いて楽をしようと思えば若いうち蟻のように働け」「圧・・・ 宮本百合子 「『キング』で得をするのは誰か」
・・・知らしむべからず、よらしむべしという徳川幕府の政治的金言は、天皇制運営者たちによって、人民にあてはめられて来たばかりでなく天皇そのひとの生涯に適用された。天皇一族の経済的なよりどころは資本家、地主としての日本の資本主義の上にある。その帝国主・・・ 宮本百合子 「平和への荷役」
・・・それは理論的に言えば一切のものの根源たる一つの理念である。この理念の代表者或いは象徴であるがゆえに神聖な権威があったのである。この重大な契機は、思想が急激に発達した飛鳥寧楽時代においても失われなかった。天皇は、宇宙を支配せる「道」の代表者或・・・ 和辻哲郎 「蝸牛の角」
・・・そういうところでなるべく小さい灌木の根元を注意すると、枯れ葉の下から黄茸や白茸を見いだすこともできる。その黄色や白色は非常に鮮やかで輝いて見える。さらにまれには、しめじ茸の一群を探しあてることもある。その鈍色はいかにも高貴な色調を帯びて、子・・・ 和辻哲郎 「茸狩り」
・・・芸術鑑賞がその根源を製作者の内生に発するごとく、偶像礼拝もまたその根源を偶像製作者の内生に発する。我々は祖先の内のこの製作者を、もっともっと尊敬しなければならない。 芸術家が独立していなかったというごときは、この際何ら問題にはならない。・・・ 和辻哲郎 「偶像崇拝の心理」
・・・ショーペンハウエルの意志否定はかなり根元的の否定であるが、しかし彼の解脱――意志なき認識や涅槃などにおいては、なお真実に自己を活かすことが出来ると思う。 真実の自己は、意識的に分析する事の出来ないものである。それは様々な本能から成り立っ・・・ 和辻哲郎 「自己の肯定と否定と」
・・・というあの金言の真の深さと重さをも。二 私はこの出来事が小さい家常茶飯の事であるゆえをもって、その時の自分の心の態度を軽視する事はできなかった。むしろそれがきわめて単純にまた明白に、自分の運命に対する愛と反撥とを示してくれた・・・ 和辻哲郎 「停車場で感じたこと」
出典:青空文庫