・・・ 外では雪がこんこんこんこん降り、酒を呑みに出掛けた人たちも、停車場まで行くのはやめたろうと思われたのです。 宮沢賢治 「耕耘部の時計」
・・・かっこうは頭を何べんもこんこん下げました。「ではこれっきりだよ。」 ゴーシュは弓をかまえました。かっこうは「くっ」とひとつ息をして「ではなるべく永くおねがいいたします。」といってまた一つおじぎをしました。「いやになっちまうな・・・ 宮沢賢治 「セロ弾きのゴーシュ」
・・・お日さまは赤と黄金でぶちぶちのやまなしのよう、かれくさのいいにおいがそこらを流れ、すぐうしろの山脈では、雪がこんこんと白い後光をだしているのでした。(飴というものはうまいものだ。天道 山男がこんなことをぼんやり考えていますと、その澄・・・ 宮沢賢治 「山男の四月」
・・・「狐こんこん白狐、お嫁ほしけりゃ、とってやろよ。」 すると狐がまだまるで小さいくせに銀の針のようなおひげをピンと一つひねって云いました。「四郎はしんこ、かん子はかんこ、おらはお嫁はいらないよ。」 四郎が笑って云いました。・・・ 宮沢賢治 「雪渡り」
・・・ 女性のうちなる母性のこんこんとした泉に美があるなら、それは、次から次へと子を産み出してゆく豊饒な胎だけを生物的にあがめるばかりではなくて、母が、愛によってさとく雄々しく、建設の機転と創意にみちているからでなくてはならないだろう。 ・・・ 宮本百合子 「結婚論の性格」
・・・んといって、樹かげの見捨てられた古屋台の中から、すっかり気がぬけて、腐っている色付ミカン水の瓶をひっぱり出して来て、それを分けて飲もうとしているとき、もし、傍に人がいて、五六間先の岩の間に本当の清水がこんこんと湧き出しているのを知っていると・・・ 宮本百合子 「マリア・バシュキルツェフの日記」
・・・「雨、こんこん降るなよ。 屋根の虫が鳴くぞよ。」 灸は柱に頬をつけて歌を唄い出した。蓑を着た旅人が二人家の前を通っていった。屋根の虫は丁度その濡れた旅人の蓑のような形をしているに相違ないと灸は考えた。 雨垂れの音が早・・・ 横光利一 「赤い着物」
出典:青空文庫