・・・……巫山戯た爺が、驚かしやがって、頭をコンとお見舞申そうと思ったりゃ、もう、すっこ抜けて、坂の中途の樫の木の下に雨宿りと澄ましてけつかる。 川端へ着くと、薄らと月が出たよ。大川はいつもより幅が広い、霧で茫として海見たようだ。流の上の真中・・・ 泉鏡花 「茸の舞姫」
・・・ この身動ぎに、七輪の慈姑が転げて、コンと向うへ飛んだ。一個は、こげ目が紫立って、蛙の人魂のように暗い土間に尾さえ曳く。 しばらくすると、息つぎの麦酒に、色を直して、お町が蛙の人魂の方を自分で食べ、至極尋常なのは、皮を剥がして、おじ・・・ 泉鏡花 「古狢」
・・・「あたりめえよ、狂人にでもならなくって詰るもんか。アハハハハ、銭が無い時あ狂人が洒落てらあナ。「お銭が有ったらエ。「フン、有情漢よ、オイ悪かあ無かったろう。「いやだネ知らないよ。「コン畜生め、惚れやがった癖に、フフフフフ・・・ 幸田露伴 「貧乏」
・・・ わたしは筆を中途に捨てたわが長編小説中のモデルを、しばしば帝国劇場に演ぜられた西洋オペラまたはコンセールの聴衆の中に索めようと力めた。また有楽座に開演せられる翻訳劇の観客に対しては特に精細なる注意をなした。わたしは漸くにして現代の婦人・・・ 永井荷風 「十日の菊」
・・・ソコブクの一コン釣りといって、名人芸の一つにされている。私もしばしば試みたけれども、十数回のうちで、たった一度しか成功しなかった。 響灘は玄海灘とつづいているが、白島付近は魚と貝類の宝庫だ。そこへ二、三年前、一月の寒い風に吹かれながら、・・・ 火野葦平 「ゲテ魚好き」
・・・父も工合わるいスエ子と自分フジへ行ってすきやきサンミッシェルの角まで歩いて車 コンコードの美しさ 十時ごろはもう消える夜十一時頃 ホテルモンソーへかえる 十月六日 カーテンから朝日この数日ない。・・・ 宮本百合子 「「道標」創作メモ」
出典:青空文庫