・・・もう眠っている。ごわごわした固い布地の黒色パンツひとつ、脚、海草の如くゆらゆら、突如、かの石井漠氏振附の海浜乱舞の少女のポオズ、こぶし振あげ、両脚つよくひらいて、まさに大跳躍、そのような夢見ているらしく、蚊帳の中、蚊群襲来のうれいもなく、思・・・ 太宰治 「創生記」
・・・久留米絣に、白っぽいごわごわした袴をはいて、明治維新の書生の感じであった。のっそり茶の間へはいって来て、ものも言わず、長火鉢の奥に坐っている老母を蹴飛ばすようにして追いたて、自分がその跡にどっかと坐って、袴の紐をほどきながら、「何しに来・・・ 太宰治 「火の鳥」
・・・その頃は今のようにソフトをつかわず、西洋洗濯から糊がごわごわについてテラリと艷出しをしたのが運ばれます。そのカフスに、指の跡をつけないよう、ボタン穴のところをくずさないよう、小さい私は目玉に力を入れてボタンをつけかえる。それを着ると父はカラ・・・ 宮本百合子 「父の手帳」
出典:青空文庫