・・・一月ごとにその程度と範囲が際限なくひろがって、客観的に公平に、国際問題や経済、政治問題をとり扱った内容さえ忌諱にふれた。日本のなかに、客観的な真実、学問上の真理、生活の現実を否定して、日本民族の優秀性と、侵略的大東亜主義を宣伝する文筆だけが・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第五巻)」
・・・一つは、作者の日々の感情に犇めいているさまざまの苦しさ、矛盾葛藤を、二十五歳の作者の力量では、人間的にも把掴しきれず、まして文学の作品としてそれを客観的に再現することは不可能であった。その結果、古代ペルシアの物語に飛躍して取材された。作者の・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第二巻)」
・・・作者の主観に足場をおいて達観すれば、やがて、そのような主観と客観との噛み合いを作家としての歴史の底流をなす社会的なものへの判断で追究し整理するより、現象そのままの姿でそれを再現し語らしめようという考えに到達することは推察にかたくない。特に自・・・ 宮本百合子 「鴎外・芥川・菊池の歴史小説」
・・・民族のさまざまな特質やその特質を更に個性のニュアンスで音楽にうちこめている作品の再現としての演奏が、純粋に音の領域から入ってその精髄にふれてゆくことも、いろいろと考えさせて感興ふかかった。 音楽にも民族の性格が顕著なのは自然だが、その自・・・ 宮本百合子 「音楽の民族性と諷刺」
・・・この歴史的時期に、プロレタリア文学は、ソヴェト・プロレタリアートの全社会的活動を、心理を記録し再現しなければならない。そのために、われわれプロレタリアートは、出来上った作品をただ読んで、いいとかわるいとか、俺たちの生活を描いているとかいない・・・ 宮本百合子 「「鎌と鎚」工場の文学研究会」
・・・黙ってしっかりそれをくいつくし、正しい秩序にかえして再現する。その偉力の美しさ、無限の鼓舞がそこにある。世代から世代へ渡る橋桁は人間の心のその光で目釘をうたれ鏤められていることを彼等は遂に見失わなかったのだ。・・・ 宮本百合子 「彼等は絶望しなかった」
・・・そしてその怒りや憤りの感じを、芸術の中に再現する。 作家としてよりも先ず人間としてわたくしは――そういえば、画家だって俳優だって、怒る時には怒り、憤る時には憤るであろう。 哀しみ 作家としての哀しみというと・・・ 宮本百合子 「感情の動き」
・・・しかし厨子王は互いに慰めもし、慰められもした一人の姉が、変った様子をするのを見て、際限なくつらく思う心を、誰に打ち明けて話すことも出来ない。二人の子供の境界は、前より一層寂しくなったのである。 雪が降ったり歇んだりして、年が暮れかかった・・・ 森鴎外 「山椒大夫」
・・・しかし僕はあなたが聞いて下さるからッて、好気になって、際限もなく話しをしていたら、退屈なさるでしょうから、いい加減にしますが、モ一ツ切り話しましょう。僕はこの時の事が悲しいといえば実に何ともいえないほど悲しいんですが、またどことなく嬉しいよ・・・ 若松賤子 「忘れ形見」
・・・描かれるものの性質を確実につかむことによって、いや応なしにそこに在るものを再現しようというのではない。冷たい温泉を描きながら、しかも浴室の気分を彷彿せしむるなどは、その証拠である。 これらの非難は『いでゆ』の画家にとっては迷惑なことに相・・・ 和辻哲郎 「院展遠望」
出典:青空文庫