・・・これらの記者たちはそれぞれ専門の方面で一般のために有益であるべきあらゆる重要事項の正確な報道紹介や、災害の防止に関する適切な助言や注意を提供し、また公共事業に対する問題を提出して最善の方案を公衆に求める事を努めなければならない。もちろんこれ・・・ 寺田寅彦 「一つの思考実験」
漫画とは何かという問に対して明確なる定義を下す事は困難であろう。また漫画とそれ以外の絵画との間に截然たる区劃線を引く事も容易ではない。漫画家自身でもおそらく人によってこれに関する所見を異にするに相違ない。今ここで私がせっか・・・ 寺田寅彦 「漫画と科学」
・・・彼らは詩人である。最善の場合において形而上学者であるが最悪の場合には妄想者であり狂者であるかもしれない。こういう人は西洋でも日本でも時々あって科学者を困らせる。しかしたいていの場合彼らの言う事は科学者の参考になるあるものを持っている。すなわ・・・ 寺田寅彦 「ルクレチウスと科学」
・・・の著しいちがいはどこまでも截然と読者の心耳に響いて明瞭に聞き分けられるであろう。同じように、たとえば「炭俵」秋の部の其角孤屋のデュエットを見ると、なんとなく金属管楽器と木管楽器の対立という感じがある。前者の「秋の空尾の上の杉に離れたり」「息・・・ 寺田寅彦 「連句雑俎」
・・・それと同様に連句でもおおぜいの共同に成る場合には、おそらく一人の指揮者によって始めて最善の効果を上げうるのではないかと思われる。自分は芭蕉時代の連句がいかなる統率法によって行なわれたかという事についてなんらの正確な知識をもたないのであるが、・・・ 寺田寅彦 「連句雑俎」
・・・君が正装をしているのに私はこんな服でと先生が最前云われた時、正装の二字を痛み入るばかりであったが、なるほど洗い立ての白いものが手と首に着いているのが正装なら、余の方が先生よりもよほど正装であった。 余は先生に一人で淋しくはありませんかと・・・ 夏目漱石 「ケーベル先生」
・・・今の世に云う写生文家というものの文章はいかなる事をかいても皆共有の点を有して、他人のそれとは截然と区別のできるような特色を帯びている。するとこれらの団体はその特色の共有なる点において、同じ立場に根拠地を構えていると云うてよろしい。もう一遍大・・・ 夏目漱石 「写生文」
・・・だからこの三作用を截然と区別するのは全く便宜上の抽象である。この抽象法を用いないで、しかも極度の分化作用による微細なる心の働きを写して人に示すのはおもに文学者がやっている。だから文学者の仕事もこの分化発展につれてだんだんと、朦朧たるものを明・・・ 夏目漱石 「文芸の哲学的基礎」
・・・私は最前空間、時間の建立からして、物我の二世界を作ると申しました。その物なるものは自然である、人間である、神であると申しました。このうちで神は感覚的なものでないから問題になりません。もし文芸に神が出現するときは感覚的な或物を通じてくるの・・・ 夏目漱石 「文芸の哲学的基礎」
・・・唇がむずむずと動く。最前男の子にダッドレーの紋章を説明した時と寸分違わぬ。やがて首を少し傾けて「わが夫ギルドフォード・ダッドレーはすでに神の国に行ってか」と聞く。肩を揺り越した一握りの髪が軽くうねりを打つ。坊さんは「知り申さぬ」と答えて「ま・・・ 夏目漱石 「倫敦塔」
出典:青空文庫