・・・しかも、また、自らの作業を捗らせるための快い調でもあった。故に、喜びがあり、悲しみがあり、慰めがある。そして、狭小、野卑の悪感を催さない。なぜならば、これ、一人の感情ではなかったゝめだ。郷人の意志であり、情熱であった。これを、土と人とが産ん・・・ 小川未明 「常に自然は語る」
・・・と歌うように言って降りて来たのを見ると、真赤な色のサテン地の寝巻ともピジャマともドイスともつかぬ怪しげな服を暑くるしく着ていた。作業服のように上衣とズボンが一つになっていて、真中には首から股のあたりまでチャックがついている。二つに割れる仕掛・・・ 織田作之助 「世相」
・・・ 親爺は、測量をする一と組の作業を見てきて心配げな顔をした。「こんなへんぴへ二つも電車をつけることはないだろう。」「ふむ。それは、そうじゃ。」 人々は、新しい杭が打たれて行くあとへ、神経を尖らしだした。敷地は、第一回の測量地・・・ 黒島伝治 「浮動する地価」
・・・昇降機がおりて来る竪坑を中心にして、地下百尺ごとに、横坑を穿ち、四百尺から五百尺、六百尺、七百尺とだん/\下へ下へ鉱脈を掘りつくし、現在、八百尺の地底で作業をつゞけている。坑外へ出るだけでも、八百尺をケージで昇り、――それは三越の六倍半だ―・・・ 黒島伝治 「土鼠と落盤」
・・・そこの女工さんたちが、作業しながら、唄うのだ。なかにひとつ、際立っていい声が在って、そいつがリイドして唄うのだ。鶏群の一鶴、そんな感じだ。いい声だな、と思う。お礼を言いたいとさえ思った。工場の塀をよじのぼって、その声の主を、ひとめ見たいとさ・・・ 太宰治 「I can speak」
・・・東京の街を行進している時だけでなく、この女の子たちの作業中あるいは執務中の姿を見ると、なお一層、ひとりひとりの特徴を失い、所謂「個人事情」も何も忘れて、お国のために精出しているのが、よくわかるような気がします。 つい先日、私の友人の画か・・・ 太宰治 「東京だより」
・・・この綿打ち作業は一度も見たことはないが、話に聞いたところでは、鯨の筋を張った弓の弦で綿の小団塊を根気よくたたいてたたきほごしてその繊維を一度空中に飛散させ、それを沈積させて薄膜状としたのを、巻き紙を巻くように巻いて円筒状とするのだそうである・・・ 寺田寅彦 「糸車」
・・・ 材木の切り出し作業や製紙工場の光景でも、ちょっと簡単な地図でも途中に插入して具体的の位置所在を示しならびに季節をも示してくれたら、興味も効能も幾層倍するであろう。しかるに、その肝心な空間的時間的な座標軸を抜きにして、いたずらに縹渺たる・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(4[#「4」はローマ数字、1-13-24])」
・・・ この作業仮説の正否を吟味しうるためには、われわれは後日を待つほかはない。もし他日この同じ地方に再び頻繁に地鳴りを生ずるような事が起これば、その時にはじめてこの想像が確かめられる事になる。しかしそれまでにどれほどの歳月がたつであろうかと・・・ 寺田寅彦 「怪異考」
・・・それで私の現在の仕事は、そういう方面への第一歩として、一つの作業仮説のようなものを持ち出したに過ぎないのである。 以上の調べの結果で、たとえば Aso, Usu, Esan, Uson, Asur, Osore, Ossar 等が意味の・・・ 寺田寅彦 「火山の名について」
出典:青空文庫