・・・それ以来樋口一葉をはじめ、明治大正を通じて今日までには幾人か、相当の文学的業績をもつ婦人作家がある。が、日本の民主的な文学の流れは、昭和のはじめ世界の民主主義の前進につれて歴史的に高まり、プロレタリア文学の誕生を見た。その当時、その流れの中・・・ 宮本百合子 「明日咲く花」
・・・ それから芸術的に言って、最も戒心のいるのは、アララギ流の儀礼による作歌の場合です。 この三つの点を相互に縫って流れているものの間に、こんにちのアララギ歌人すべての課題がひそんでいると感じます。現代は、アララギがかつて現代短歌史にわ・・・ 宮本百合子 「歌集『仰日』の著者に」
・・・更に料理人、理髪師、土工等あらゆる階級の人々にとっての文学表現の形式となり得ている、その様式の浸透を、窪田氏は超階級性と見ておられるのであるが、直ちに、作歌上からむずかしさのために過去の歌でさけられて来ている職業を取材したものの多いのは、現・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・趙翼は魏収をそしって「代人作家譜」といった。しかしわたくしの伝記を作るのと、支那人が史を修めたのとは、その動機に同じからざるものがあるかとおもう。碑文に漢文体を用いるのも、また形式未成のゆえである。これが歴史である。現在はかくのごとくである・・・ 森鴎外 「なかじきり」
・・・親としての作家と、作家としての作家と、区別はないようであるけれども、駄作を承認する襟度に一層の自信を持つようになったのは、親としての作家が混合して来た結果である場合によることが多いと思われる。人間が行動するとき、子のあるものと子のないものと・・・ 横光利一 「作家の生活」
・・・四 フランスやイタリアの作家には饒舌が眼につく。私はダヌンチオやブウルジェエの冗漫に堪え切れない。トルストイに至ってはさすがに偉大である。たとえばあの大部なアンナ・カレニナのどのページを取ってみても、私は極度に緊縮と充実とを・・・ 和辻哲郎 「生きること作ること」
出典:青空文庫