・・・「エ、それともどうしても娘が欲しいと言うのか、コラ!」 校長は一語を発しない。「判然と言え! どうしても欲しいと言うのか、男らしく言え、コラ!」 細川はきっと頭をあげた。「左様で御座います! 梅子さんを私の同伴者に貰いた・・・ 国木田独歩 「富岡先生」
・・・お秀は嘆息ついて、そして淋びしそうな笑を顔に浮かべ、「ほんに左様ですよ、人様のお話の取次をして何番々々と言って居るうちに日が立ちますからねエ」と言って「おほほほほ」と軽く笑う。「女の仕事はどうせ其様なものですわ、」とお富も「おほほほほ」・・・ 国木田独歩 「二少女」
・・・自ら欺けるをかれはいつしか知りたれど、すでに一度自ら欺きし人はいかにこれを思い付くともかいなく、かえってこれを自ら誇らんとするが人の情の怪しき作用の一つなり。そこには必ず一個の言いわけあるものなり。この青年はわれに天職ありと自ら約せり。この・・・ 国木田独歩 「わかれ」
・・・道徳価値の把握は知的作用によらず、情緒的な直覚によって価値感知されるのである。これがシェーラーのいわゆる情緒的直覚主義の立場である。シェーラーはさらに価値の等級を直観するアプリオリの等級感があるといい、ある意欲対象である価値が、他の意欲のそ・・・ 倉田百三 「学生と教養」
・・・現実主義者が恋愛は性慾と生殖作用の上部構造にすぎないといっても、精神的憧憬の深いイデアリストは恋愛が性慾をこえた側面を持ち、むしろそのこえんとする悩みにこそ、恋愛の秘義があると主張してやまないであろう。 青年学生はいずれ関心事たる恋愛に・・・ 倉田百三 「学生と生活」
・・・ 強て何か話が無いかとお尋ねならば、仕方がありません、わたくしが少時の間――左様です、十六七の頃に通学した事のある漢学や数学の私塾の有様や、其の頃の雑事や、同じ学舎に通った朋友等の状態に就いてのお話でも仕て見ましょう。今でも其の時分の面・・・ 幸田露伴 「学生時代」
・・・が与えた左様いう感じも必ずしも小さい働ではないと思います。文章発達史の上から云えば矢張り顧視せねばならぬ事実だと思います。 それはまあただ文章の上だけの話でありますが、其から「浮雲」其物が有した性質が当時に作用した事も中々少くはなかった・・・ 幸田露伴 「言語体の文章と浮雲」
・・・其物が有した性質が当時に作用した事も中々少くはなかったように覚えています。今でこそ別に不思議でもないのでありますが、彼の頃でああいうものは実に類例のないものであったのであります。勿論西洋のものもそろそろ入って来ては居りましたのですが、リット・・・ 幸田露伴 「言語体の文章と浮雲」
・・・ああ、左様々々、まだ其頃のことで能く記臆して居ることがあります。前申した會田という人の許へ通って居た頃、或日雨が大層降って溝が開いたことがある。腿立を挙げる智慧も無かったと見えて袴を穿いたままのろのろと歩いていって、其儘上りこんで往ったもの・・・ 幸田露伴 「少年時代」
・・・尚不思議奇々妙々なのは、植物の芋の蔓でもムカゴの蔓でも皆螺旋すると同じく、礦物の蔓もその実は螺旋的になッてるのだが、但し噴火山作用でメチャメチャになッて分らないのサ。火かえんも螺線になッて燃えるのだが凡眼では見えないのサ。風は年中螺旋に吹て・・・ 幸田露伴 「ねじくり博士」
出典:青空文庫