・・・なぜなら学者の説によれば、方角を知覚する特殊の機能は、耳の中にある三半規管の作用だと言うことだから。 余事はとにかく、私は道に迷って困惑しながら、当推量で見当をつけ、家の方へ帰ろうとして道を急いだ。そして樹木の多い郊外の屋敷町を、幾度か・・・ 萩原朔太郎 「猫町」
・・・ しかるにこのイソダンの消印のある手紙は、幸にもその暗示的作用を有する機会の一つであった。先生はこの手紙が自己の空想の上に、自己の霊の上に、自然に強大に感作するのを見て、独り自ら娯しんでいる。 この手紙を書いた女はピエエル・オオビュ・・・ 著:プレヴォーマルセル 訳:森鴎外 「田舎」
・・・ただどこまでも十力の作用は不思議です。ここはもういつまでも子供たちの美しい公園地です。どうでしょう。ここに虔十公園林と名をつけていつまでもこの通り保存するようにしては。」「これは全くお考えつきです。そうなれば子供らもどんなにしあわせか知・・・ 宮沢賢治 「虔十公園林」
・・・温泉の作用で岩が赤くなったのです。ここがずうっとつちの底だったときですよ。わかりますか。〕だまっている。波がうごき波が足をたたく。日光が降る。この水を渉ることの快さ。菅木がいるな。いつものようにじっとひとの目を見つめている。〔ここを・・・ 宮沢賢治 「台川」
・・・「へい。それはきっとお預かりいたしまするでございます」「左様か。あいや。金子はこれにじゃ。そち自ら蓋を開いて一応改めくれい。エイヤ。はい。ヤッ」さむらいはふところから白いたすきを取り出して、たちまち十字にたすきをかけ、ごわりと袴のも・・・ 宮沢賢治 「とっこべとら子」
・・・「そうするとおうちの方ではどうなるのですか。」 狐の校長さんは青く光るそらの一ところを見あげてしずかに鬚をひねりながら答えました。「左様、左様、至極ご尤なご質問です。私の方は太陰暦を使う関係上、月曜日が休みです。」 私はすっ・・・ 宮沢賢治 「茨海小学校」
・・・一年の間に肥る分左様百六十キログラムの牛肉で十人の人が一年生きていられますか。一人一日五十グラムですよ。親指三本の大さですよ。腹が空りはしませんか。 よくおわかりにならないようですがもっと手短かに云いますともし人間が自然と相談して牛肉や・・・ 宮沢賢治 「ビジテリアン大祭」
・・・ ソヴェト同盟における新しい内容での一夫一婦制の確立は、男女の日常生活に作用する社会関係全体が、彼ら自身の犠牲多い積年の努力で健康な土台の上に組み直されて始めて、現実の可能となったのであった。 日本の解放運動は、広く知られているとお・・・ 宮本百合子 「新しい一夫一婦」
・・・そして、片手の指には、火のつき煙の立つ煙草を挟んだまま、両足を開いて立ち、「失礼しました。左様なら」と云う。私も立って「左様なら」と云った。もう少しで、「一服つけて御出かけと云う処ですか」と云うところであった。・・・ 宮本百合子 「或日」
・・・ 世の中の出来事のすべてに対して左様です。 私の心の驚いたり感じさせられたりする事は、善悪の区別もなく、美醜の見境えもないので、私の毎日は何と云う動かされどうしな事でしょう。 或る時は身の置き所のない程自分が小さく見すぼらしいも・・・ 宮本百合子 「動かされないと云う事」
出典:青空文庫