・・・それらの記事を人は様々の心で読むだろうが、今年それらの記事に目をさらす幾千かの若い瞳の裡なる人生への思いを考えると、何か苦しくなる。実業学校の卒業生は上級学校へ入れないことになったという事実には、それらの少年たちへのむごさがあると思う。・・・ 宮本百合子 「今日の耳目」
・・・な考えは無用であると云われた四年ほど前の言葉の唾は、余り自由に心地よくひろく高くはねとばされて、その後四年たって面上に落ちかかって来たときは、その震動の激しさで、外ならぬその発言者が顛動的上下動に身をさらすこととなったのである。 文学に・・・ 宮本百合子 「昭和十五年度の文学様相」
・・・君の衣は藻のなびきにういてみどりの藻の上をうす紅の衣がただよって居る、その絵のような又とないものあわれな様子を想像しながら、「美くしい人にふさわしい涙の多いは果ない最後であった、けれ共今更その骸をさらすのはあんまりむごいことで有る。あの・・・ 宮本百合子 「錦木」
・・・よかれあしかれ、男の作家のもつ社会性のひろさ、敏感さ、積極性がそういう文学上の混乱を示しているのであるが、婦人作家たちの多くは、そういう危険に我とわが身、わが芸術を曝すだけの社会感覚をもたず芸術至上の境地にこもって、身辺のことを熱心に描きつ・・・ 宮本百合子 「婦人の文化的な創造力」
・・・批判の精神が人間精神の不滅の性能であることやその価値を承認することは、とりも直さず客観的観照の明々白々な光の下に自身の自我の転身の社会的文学的様相を隈なく曝すことになり、それは飽くまで主観的な出発点に立っている精神にとって決して愉快なことで・・・ 宮本百合子 「文学精神と批判精神」
・・・対して無責任であることを指摘しているが、もし現在のジャーナリズムにそのような弱いところがなかったならば同氏によって『文芸』に推薦されたと仄聞する勝野金政の小説などは、烏滸がましくも小説として世間に面をさらす機会はなかったのである。「東綺・・・ 宮本百合子 「文芸時評」
・・・経済年鑑のようなものを借りに来ている和服の若い女のひとも、洋装で、ドイツ語の医学書を借りているひとも、そのほか何人かの若い女のひとたちが、ひとしくその棚に目をさらすのだが、どの女のひとも、少女という年頃の娘さんでさえ、この「新女大学」と金文・・・ 宮本百合子 「三つの「女大学」」
・・・騎士物語の中には、夫である一人の騎士が、友達との張合いから、妻の貞操を賭物として、破廉恥な友人の道徳的なテストに可憐な妻をさらす物語が少くない。中世の女性達は女としての奇智の限りを尽して、非道な奪掠者と闘った。そして自分の愛の純潔と夫への忠・・・ 宮本百合子 「私たちの建設」
・・・太郎兵衛は明日の夕方までさらすことになっている。刑を執行するまでには、まだ時がある。それまでに願書を受理しようとも、すまいとも、同役に相談し、上役に伺うこともできる。またよしやその間に情偽があるとしても、相当の手続きをさせるうちには、それを・・・ 森鴎外 「最後の一句」
・・・毎日降るのだから、こうして曝すのであろう。 がらがらと音がして、汽車が紫川の鉄道橋を渡ると、間もなく小倉の停車場に着く。参謀長を始め、大勢の出迎人がある。一同にそこそこに挨拶をして、室町の達見という宿屋にはいった。 隊から来ている従・・・ 森鴎外 「鶏」
出典:青空文庫