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・・・ 晴やかな朝日は、そのじじむさい銀行の鉄窓の棧と、板囲いのざらざらした面とを照した。午後になると、熟した太陽の光は微に濁って向い側の料理店の柱列や、裁縫店の飾窓に反射した。一層悲しげに見える料理店の桃色の窓枠の間々には、もう新鮮さを失っ・・・
宮本百合子
「小景」
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・・・一条細い道が跫跡にかためられて、その間を、彼方の山麓まで絶え絶えについている。ざらざらした白っぽい巌の破片に混って硫黄が道傍で凝固していた。烈しい力で地層を掻きむしられたように、平らな部分、土や草のあるところなど目の届く限り見えず、来た方を・・・
宮本百合子
「白い蚊帳」