・・・朝から晩まで、獣物のように使役された。俺たちはどうかしてこの島から逃げ出したいものだと思ったけれど、どうすることもできなかった。日が暮れると海辺へ出ては、火をたいて、もしやこの火影を見つけたら、救いにきてはくれないかと、あてもないことを願っ・・・ 小川未明 「明るき世界へ」
・・・しかし造物主は、人間の食用のためにし、玩賞のためにし、また使役するためにせんと、創造したものではなかったでしょう。もし、かく思うならば、誤信にすぎないのであります。なぜなら、彼等は、自ら生存し、自ら楽しみ、自ら種族を遺す自由を有しているから・・・ 小川未明 「天を怖れよ」
・・・あるいは、奈良朝時代、使役する奴隷や農奴の脱走を防ぐために、いれずみをした、そのような何かが必要になって来たというのだろうか。 たしかに、東京はおそろしいところになっている。上海がかつて国際犯罪都市であったように、ブダペストが国際スパイ・・・ 宮本百合子 「指紋」
・・・現代の科学力は、それが国際的な軍需生産者の独占資本に使役されるとき、戦争行為におかれた国々の軍事的拠点に、想像できないほど巨大な破壊力を加えるばかりでなく、その周辺の全く無罪な人民の生命を、老若の差別なくみな殺しにする。この事実はナガサキと・・・ 宮本百合子 「戦争はわたしたちからすべてを奪う」
・・・飼主の命令のままに馴らされ、使役される犬猫から牛馬のたぐいは人道的なひとびとによって組織されている愛護デーをもつ。犬を愛するものも愛護される。だが、独立の人間としての理性から自由を愛し、より多くの社会人の生活の安定が見出されなければならない・・・ 宮本百合子 「動物愛護デー」
・・・しかし、その半面の現実である奴隷使役者としての市民感情は、敢てなお人類の勇敢さというものを無際限、無条件に肯定しかねる心理が存在した。自由市民が労役奴隷に対して、どたん場で発揮し得る絶対権力があった。その姿がそっくりそのままギリシア伝説にお・・・ 宮本百合子 「なぜ、それはそうであったか」
・・・の抒情的作風からはやい歩調で成長してきて、取材の範囲をひろめながら日本の繊維産業とそこに使役されている婦人の労働についてはっきり労働階級の立場から書きはじめている。彼女の筆致はまだ粗く、人間像の内面へまで深く迫った形象化に不足する場合もある・・・ 宮本百合子 「婦人作家」
・・・新しい歴史がひらけたアジアで、独特な辛苦の立場におかれている島国・日本の人民が、どのように自身を世界平和かくらんのために使役されることからまもり、自身と世界の良心のために、これまでだまっていたつましい人民が、どんなにいろいろさまざまの現実に・・・ 宮本百合子 「文学と生活」
・・・ 四本の箸は、すばしこくなっている男の手と、すばしこくなろうとしている娘の手とに使役せられているのに、今二本の箸はとうとう動かずにしまった。 永遠に渇している目は、依然として男の顔に注がれている。世に苦味走ったという質の男の顔に注が・・・ 森鴎外 「牛鍋」
・・・ある気分、ある想念を現わすために、自然を使役し、時にはそれを非難することさえも辞せないのである。 もとより右の傾向には、双方ともに例外がある。しかし大体の観察としては誤らないと思う。洋画家が日本画家のような大きな画題を捕えないのは、一つ・・・ 和辻哲郎 「院展遠望」
出典:青空文庫