・・・ツ会に、洋行がえりの将校次をおうて身の上ばなしせしときのことなりしが、こよいはおん身が物語聞くべきはずなり、殿下も待ちかねておわすればとうながされて、まだ大尉になりてほどもあらじと見ゆる小林という少年士官、口にくわえし巻煙草取りて火鉢の中へ・・・ 森鴎外 「文づかい」
・・・世間でおめかしをした Adonis なんどと云う性で、娘子の好く青年士官や、服屋の見本にかいてある男にある顔なのです。そこでわたくしは非常に反抗心を起したのです。どうにかして本当の好男子になろうとしたのですね。 女。それはわたくしに分か・・・ 著:モルナールフェレンツ 訳:森鴎外 「最終の午後」
・・・同時にまた彼は熱心なキリシタン排撃者であって、仕官の前年に『排耶蘇』を書いている。松永貞徳とともに、『妙貞問答』の著者不干ハビアンを訪ねた時の記事である。その時、まず第一に問題となったのは、「大地は円いかどうか」ということであった。羅山はハ・・・ 和辻哲郎 「埋もれた日本」
・・・自分の生活の弛緩を責める代わりに自分がより高くならないことでイライラする。そうしてある悪魔の手を、――あるいは不運と不幸を呪おうとする。何という軽率だろう。もしそれが自分から出た事ならば、私はただ首を垂れるほか仕方がないではないか。私は自分・・・ 和辻哲郎 「停車場で感じたこと」
出典:青空文庫