・・・しかし汽車に乗って丸亀や坂出の方へ行き一日歩きくたぶれて夕方汽船で小豆島へ帰ってくると、やっぱり安息はここにあるという気がしてくる。四季その折々の風物の移り変りと、村の年中行事を、その時々にたのしめるようになったのは、私には、まだ、この二三・・・ 黒島伝治 「四季とその折々」
・・・兵卒は、戦闘が始ると悉く橇からおりて、雪の上を自分の脚で歩いているのだ。指揮者だけがいつまでも橇を棄てなかった。御用商人は、彼をだましたのだ。ロシア人を殺すために、彼等の橇を使っているのだ。橇がなかったらどうすることも出来やしないのに!・・・ 黒島伝治 「橇」
・・・部下を指揮する手腕が十分でなかった責任は当然彼の上にかかって来るからだ。不届きな兵タイは、ほかの機会にひどいめにあわしてやることにして、今は、かくしておくことにした。その方が利巧な方法だ。「閣下も討伐の目的が達して、非常にお喜びになるこ・・・ 黒島伝治 「パルチザン・ウォルコフ」
・・・将校の動きも、隊長も指揮官も、相手方の部隊の様子も、軍隊の背後に於ける国内の大衆の生活状態も、そこに於ける階級の関係も、すべて戦争と密接な切り離せない関係を持っている。が、それと共に兵卒は、背後のいろ/\な関係を集団としての自分達のなかに反・・・ 黒島伝治 「明治の戦争文学」
・・・それで、「誰某は偉い奴だ、史記の列伝丈を百日間でスッカリ読み明らめた」というような噂が塾の中で立つと、「ナニ乃公なら五十日で隅から隅まで読んで見せる」なんぞという英物が出て来る、「乃公はそんなら本紀列伝を併せて一ト月に研究し尽すぞ」という豪・・・ 幸田露伴 「学生時代」
・・・ 而して先生は古今の記事文中、漢文に於ては史記、邦文では「近松」洋文ではヴォルテールの「シヤル・十二世」を激賞して居た。四 先生の文章は其売れ高より言えば決して偉大なる者ではなかった。先生の多くの著訳書中、其所謂「生・・・ 幸徳秋水 「文士としての兆民先生」
・・・これは四季によって少しずつ違う。起きて直ぐ、蒲団を片付け、毛布をたゝみ、歯を磨いて、顔を洗う。その頃に丁度「点検」が廻わってくる。一隊は三人で、先頭の看守がガチャン/\と扉を開けてゆくと、次の部長が独房の中を覗きこんで、点検簿と引き合せて、・・・ 小林多喜二 「独房」
・・・人生観はすなわち実行的人生の目的と見えるもの、総指揮と見えるものに識到した観念でないか。いわゆる実行的人生の理想または帰結を標榜することでないか。もしそうであるなら、私にはまだ人生観を論ずる資格はない。なぜならば、私の実行的人生に対する現下・・・ 島村抱月 「序に代えて人生観上の自然主義を論ず」
・・・OSSIP SCHUBIN「アルフォンス・ド・ステルニイ氏は十一月にブルクセルに来て、自ら新曲悪魔の合奏を指揮すべし」と白耳義独立新聞の紙上に出でしとき、府民は目を側だてたり。「父」WILHELM SCHAEFER 私の外には此・・・ 太宰治 「女の決闘」
・・・海賊の王、チャイルド・ハロルド、清らなる一行の詩の作者、たそがれ、うなだれつつ街をよぎれば、家々の門口より、ほの白き乙女の影、走り寄りて桃金嬢の冠を捧ぐとか、真なるもの、美なるもの、兀鷹の怒、鳩の愛、四季を通じて五月の風、夕立ち、はれては青・・・ 太宰治 「喝采」
出典:青空文庫