・・・その上もう一月すると、ほとんど受ける気のしない入学試験がやって来る。入学試験に及第しなかったら、………「美津がこの頃は、大へん女ぶりを上げたわね。」 姉の言葉が洋一には、急にはっきり聞えたような気がした。が、彼は何も云わずに、金口を・・・ 芥川竜之介 「お律と子等と」
・・・ 三 彼は中学を卒業してから、一高の試験を受けることにした。が、生憎落第した。彼があの印刷屋の二階に間借りをはじめたのはそれからである。同時にまたマルクスやエンゲルスの本に熱中しはじめたのもそれからである。僕は・・・ 芥川竜之介 「彼」
・・・またすべての青年の権利たる教育がその一部分――富有なる父兄をもった一部分だけの特権となり、さらにそれが無法なる試験制度のためにさらにまた約三分の一だけに限られている事実や、国民の最大多数の食事を制限している高率の租税の費途なども目撃している・・・ 石川啄木 「時代閉塞の現状」
・・・もしもその際に、近代人の資格は神経の鋭敏という事であると速了して、あたかも入学試験の及第者が喜び勇んで及第者の群に投ずるような気持で、その不健全を恃み、かつ誇り、更に、その不健全な状態を昂進すべき色々の手段を採って得意になるとしたら、どうで・・・ 石川啄木 「性急な思想」
・・・――そこで、心得のある、ここの主人をはじめ、いつもころがり込んでいる、なかまが二人、一人は検定試験を十年来落第の中老の才子で、近頃はただ一攫千金の投機を狙っています。一人は、今は小使を志願しても間に合わない、慢性の政治狂と、三個を、紳士、旦・・・ 泉鏡花 「木の子説法」
・・・「どうぞ、お試し下さい、ねえ、是非一回御試験が仰ぎたい。口中に熱あり、歯の浮く御仁、歯齦の弛んだお人、お立合の中に、もしや万一です。口の臭い、舌の粘々するお方がありましたら、ここに出しておきます、この芳口剤で一度漱をして下さい。」 ・・・ 泉鏡花 「露肆」
・・・唄ヲツクッテ、竹富久井アタリニ集会シテイマシタラ、モウ一倍ラクナ事ダロウト思イマス近ゴロノ私ノ道楽ハ、何デモオモイ浮ンダコトヲ書ツケテオイテ、ソレガドレダケノ月日ヲ経タラ、フルクナルカト申スコトヲ試験シテオリマス、何ヲオ隠シ申シマショウ・・・ 内田魯庵 「斎藤緑雨」
・・・電灯が試験的に点火されても一時間に十度も二十度も消えて実地の役に立つものとは誰も思わなかった。電話というものは唯実験室内にのみ研究されていた。東海道の鉄道さえが未だ出来上らないで、鉄道反対の気焔が到る処の地方に盛んであった。 二十五年前・・・ 内田魯庵 「二十五年間の文人の社会的地位の進歩」
・・・しかしながら実際これを試験してみますると、思うとおりには行きません。樅は生えは生えまするが数年ならずして枯れてしまいます。ユトランドの荒地は今やこの強梗なる樹木をさえ養うに足るの養分を存しませんでした。 しかしダルガスの熱心はこれがため・・・ 内村鑑三 「デンマルク国の話」
・・・それ故に母親が自から改めなければ、強権の力を頼んでも試験勉強の如きを廃して、幾百万の児童を救ってもらいたいと思うのであります。 お母さんだけが、いつの場合にでも、子供のほんとうの味方でありましょう。そのお母さんが、もし子供の人格を重んぜ・・・ 小川未明 「お母さんは僕達の太陽」
出典:青空文庫