・・・そして商売の上では、価のある紙質や書類をよりわける。向高は、春桃をどうしても女房や、と呼びたい。そして、実際にそう呼ぶ。けれども春桃はその度毎に、「女房、女房って、そう呼んじゃいけないって云ってるじゃないか、ええ?」と、うけつけないのであっ・・・ 宮本百合子 「春桃」
・・・現実から学んで芸術を創造すべきことを主張した所謂写生文派の人々、子規、虚子、漱石、或は直接この流派に属したのではなかったが、森鴎外のような優秀な芸術的資質をもった作家まで、等しく自然主義文学の運動に対して必しも同感的でなかったことはまことに・・・ 宮本百合子 「「土」と当時の写実文学」
・・・ 坪内先生は非常に聰明な資質の先達者であった。正宗白鳥氏が先日、逍遙博士は文学の師であるばかりでなく生死に処する道を教えた方であるという感想を書いておられたが、私は坪内先生の一生をあるべきとこにあって完璧たらしめた先生の聰明、努力、達見・・・ 宮本百合子 「坪内先生について」
・・・ 一つの国で、紙の色が段々すっきりしなくなって来て紙質も低下して来たような時期に、どんな内容の本を出して来ているかということが、殆ど例外なくその国の進展の十年二十年さきを予言しているように思われるのが、世界の歴史の実情である。紙のわ・・・ 宮本百合子 「日本文化のために」
・・・その本は、手ちがいのために、ひどく紙質も粗悪であったし、頁のくみちがえもあった。書籍として愛しにくい本になった。 この苦痛は読者の側にもあって、いろいろ要求があった。そこへこのたび近代思想社から文芸評論集編纂の話が出て、解放社の『歌声よ・・・ 宮本百合子 「はしがき(『文芸評論集』)」
・・・女性によって書かれたこの二種の本は、業績の相異とか資質の詮索とかを超えて結局は人類がその時代に潜められている様々の可能を実現し、花咲き実らすためには、どのような良心と、精励とが生活の全面に求められているかということについて、男性の生涯へも直・・・ 宮本百合子 「はるかな道」
・・・即ち社会の「下から、群集に混って困苦と苦闘を経ながら飽くことのない天才の資質とをもって其を眺めた」バルザックが、複雑多岐な形態で各人に作用を及ぼしている社会的モメントをつきつめれば、それは二つのもの、色と慾とであることを観察し、更にこの二つ・・・ 宮本百合子 「バルザックに対する評価」
・・・あらゆる大芸術家の重大な資質の一つは善良さと純潔な人間性であるということについて。「二世紀というものは権力に抗う人々が『自由意志』の怪しげな主義を築くために費された。更に二世紀というものは、自由意志の第一段の必然帰結たる信仰の自由の発達・・・ 宮本百合子 「バルザックについてのノート」
・・・などは、作者のアナーキスティックな資質は変らないが、戦時中彼女がこうむった抑圧の記録として、また中国捕虜のおそるべき運命の報告書として、強い感銘を与えるものであった。その後この作家が「地底の歌」という新聞小説の連載によってやくざの世界の描き・・・ 宮本百合子 「婦人作家」
・・・各人の人生と生活の経験を文学であらしめるものは、文学的才能などという、浅薄な偶然な資質ばかりではないと思う。人間性をゆすぶる様々の経験に対して、自分としてそれをどう感じ、理解し、その経験から何を獲て生きぬけて来たか、という諸関係について、本・・・ 宮本百合子 「婦人の生活と文学」
出典:青空文庫