・・・マニズム論は、自然、良心的市民全般の生活態度への示唆として注目をひきつけずにはいなかったのであったが、残念なことに、多くのヒューマニズム提唱者は、それぞれの持論の内に、第三者が直ちにそれをもって行為的指針となし得なかった様々の微妙な矛盾を示・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・ 私心ないと云う事、我見のないと云う事は、自分の持って居る或る箇性、人間性を、絶大なフ遍性と同一させた境地でございましょう。「我」と云う小さい境を蹴破って一層膨張した我ではございますまいか。その境で、人はもう、小さい「俺」や「私」やには・・・ 宮本百合子 「C先生への手紙」
・・・日本の理性と良心の擁護をめざす私心のない、広汎な戦線の必要は、こんにちにおいてもまじめなすべての人々の欲求として理解されている。それにもかかわらず、たとえば、文学者懇談会は、継続されなかった。なぜあれは、もちつづけてゆけなかったのだろうか。・・・ 宮本百合子 「「下じき」の問題」
・・・其故、この古家の古本に再び日の目を見せる気になった私の心持の底には、謂わば私心を脱した書籍愛好者魂とでも云うべきものが働いていなかったとは云えない。 慶応三年新彫、江戸開成所教授神田孝平訳の経済小学、明治元年版の山陽詩註、明治二十二年出・・・ 宮本百合子 「蠹魚」
・・・心理学的に、統計的に、社会的世論をつくりあげてゆくための暗示の可能性とその方向の指針として。さもなければ、今日の日本の新聞に、共産主義者は軍国主義者であるというような愚劣な文字がどうしてあらわれ得るだろう。 共産主義のみならず社会主義的・・・ 宮本百合子 「世紀の「分別」」
・・・ドン・キホーテの単純な私心ない行為に「負かされ詰めだけれども、結果としてとうとう僕の方が勝ったのだ。ところが、こいつは誰にも通じやしない。もっとも僕は通じなくたって悲しんでやしないがね」という独善的な結論をかためるためにくっついて行ったので・・・ 宮本百合子 「一九三四年度におけるブルジョア文学の動向」
・・・が行動の指針として有能な若い男女の間で読まれたということも、おのずから今日肯けるのである。 ツルゲーネフとトルストイとの衝突は既に文学史的な出来ごとである。二人の大作家が十五年間も意志の疏通を欠いたばかりか、或る時は本気で決闘までしかね・・・ 宮本百合子 「ツルゲーネフの生きかた」
・・・ 苟且にも、小説に書く場合には、私自身のことを書いて居ても、決して、私心を以て描くのではない。心持それ自身を、或圏境に於ける、或性格の二十何歳の女は、斯う思った、と、自ら観、書くのだ。本能が観察せずには居ないのですから、と云っても、其は・・・ 宮本百合子 「二つの家を繋ぐ回想」
・・・そして小説を書くほどの人は、人類が尊い努力と犠牲によって歴史をおしすすめてきた真理に対して私心なくその価値を認めて、人々とともにその人間の知慧の成果を分けもつことを心からよろこべる人であるはず、とも云っている。文学と生活との関係については、・・・ 宮本百合子 「文学と生活」
・・・若い娘達の生活感情に指針を与えるどころか、彼等自身の足許を、彼女等の示す無自覚なだけ却って抑制のない感情の表現によってぐらつかせられます。人格の陶冶されない男性の共通な癖として、若い女性の気持の夢を認めず、男性同様の現実的慾求が暗示されてい・・・ 宮本百合子 「惨めな無我夢中」
出典:青空文庫