・・・ けれどもこれら巨細にわたった施設に関しては、札幌農科大学経済部に依頼し、具体案を作製してもらうことになっていますから、それができ上がった時、諸君がそれを研究して、適当だと思ったらそれを採用されたなら、少なからず実際の上に便利でしょう。・・・ 有島武郎 「小作人への告別」
・・・もし社会主義の思想が真理であったとしても、もし実行という視角からのみ論ずるならば、その思想の実現に先だって、多くの中間的施設が無数に行なわれねばならぬ。いわゆる社会政策と称せられる施設、温情主義、妥協主義の実施などはすべてそれである。これら・・・ 有島武郎 「広津氏に答う」
・・・然しそれは歴代の為政者の中央政府に阿附するような施設によって全く踏みにじられてしまった。而して現在の北海道は、その土地が持つ自然の特色を段々こそぎ取られて、内地の在来の形式と選む所のない生活の維持者たるに終ろうとしつゝあるようだ。あの特異な・・・ 有島武郎 「北海道に就いての印象」
・・・ ここを入って行きましょうと、同伴が言う、私設の市場の入口で、外套氏は振返って、その猪の鼻の山裾を仰いで言った。「あれ、温泉よ。」「温泉?」「いま通って来たじゃありませんか、おじさん。」「ああ、あの紺屋の物干場と向い合っ・・・ 泉鏡花 「古狢」
・・・あの会合は本尊が私設外務大臣で、双方が探り合いのダンマリのようなもんだったから、結局が百日鬘と青隈の公卿悪の目を剥く睨合いの見得で幕となったので、見物人はイイ気持に看惚れただけでよほどな看功者でなければドッチが上手か下手か解らなかった。あア・・・ 内田魯庵 「二葉亭追録」
・・・ 私は、児童芸術に没頭していますが、真に、児童の世界を擁護し、児童のためにつくす施設に乏しいのを感ぜずにいられません。浅薄なイデオロギーによって、児童を在来の文化に囚えんとするもの、もしくは、政治的目的意識によって階級観念を植付けんとす・・・ 小川未明 「文化線の低下」
・・・種々の社会政策、社会慈善事業、公共施設、社会改革運動等は大むねこの目標の下に行なわれている。常識的ではあるが実際の社会に影響を及ぼし、主義を実現する勢力の強いことはアングロ・サクソンの政治の如くである。しかしわれわれはそれに眩惑されてはなら・・・ 倉田百三 「学生と教養」
・・・江の島の橋のたもとに、新宿へ三十分、渋谷へ三十八分と、一字一字二尺平方くらいの大きさで書かれて居る私設電車の絵看板、ちらと見て、さっさと橋をわたりはじめた。からころと駒下駄の音が私を追いかけ、私のすぐ背後まで来てから、ゆっくりあるいて、あた・・・ 太宰治 「虚構の春」
・・・ 家人がお隣りへ行って来ての話に、お隣りの御主人は名古屋のほうの私設鉄道の駅長で、月にいちど家へかえるだけである。そうして、あとは奥さまとことし十六になる娘さんとふたりきりで、夾竹桃のことは、かえって恐縮であって、どれでもお気に召したも・・・ 太宰治 「めくら草紙」
・・・ もし学校のようなありがたい施設がなくて、そしてただ全くの独学で現代文化の蔵している広大な知識の林に分け入り何物かを求めようとするのであったら、その困難はどんなものであろうか。始めから終わりまで道に迷い通しに迷って、無用な労力を浪費する・・・ 寺田寅彦 「案内者」
出典:青空文庫