・・・時には、うんざりさせてしまうような調子の高い陽気さも彼女の裡にはしっくりと融和されて、女性の強靭な弾力を輝やかせる一色彩となりますでしょう。 彼女こそは愛すべき永遠の女性として、地上の歓びを生むべきなのでございます。 けれども、C先・・・ 宮本百合子 「C先生への手紙」
・・・アイヌ人でも美しい人は矢張り色が白く、濃い眉に深みのある瞳を持っていますから黒っぽいアイヌの平生着と、よく調和して、その背景になっている北海道の大自然と、アイヌはしっくりと合っていますから一層趣が深うございます。 今一つ云ってみたい・・・ 宮本百合子 「親しく見聞したアイヌの生活」
・・・これは、作者自身が眼科医であるらしくて、しっくりと医学的追求とヒューマニティがむすびつき、戦争の残酷さについて身に迫る作品でした。 科学の側からもっと文学に入ってこなければならないのは、自然科学よりも社会科学です。 ・・・ 宮本百合子 「質問へのお答え」
・・・ああ思い、こう考え、いろいろの憧れをもつ、しかし最後にはその中から、自分に本当にしっくりしたものを選び出し、選んだと信じたら、其をやり通す強情さをもって居る。 原あさを 仙台かどこかの豪家の娘 母一人、娘一人・・・ 宮本百合子 「一九二五年より一九二七年一月まで」
・・・なければ各人各様がおもしろいところなのかもしれないけれども、民主主義文学の諸問題の各面をそれぞれに担当して、ずっとよんで綜合してみれば、なるほど、民主主義文学の発展のためには、これこれの問題があると、しっくり会得できるというふうな意味での客・・・ 宮本百合子 「一九四六年の文壇」
・・・舞台の下からつまだててそっとのぞいた猿芝居釣枝山台 緋毛せん灯かげはチラチラかがやいてほんにきれいじゃないかいナシャナリシャナリとねって行く赤いおべべの御猿さんかつらはしっくりはまってもまっかな御かおと毛・・・ 宮本百合子 「つぼみ」
・・・ 背の低いものは低いように、高いものはまた高いもののようにお互にしっくりと工合よく、仲よさそうに生きているのを見ると、何によらず彼は、「はあ、真当なことだ」と思う。 そしてどことなく心がのびのびと楽しくなって、彼のいつも遠慮・・・ 宮本百合子 「禰宜様宮田」
・・・それは、雑誌を眺めるものに何となし両方がしっくりしないままつぎ合わされている感銘をつよく与える。何だかそこに不調和なものがあることを印象づけられる。今日の女の働き、社会生活は、この印象に似た一種の矛盾、極めていりくんで解きにくい時代的な絡み・・・ 宮本百合子 「働く婦人」
・・・ 読み進んでゆくうちに、読者は到るところで、しっくりはまりこめない凸凹した説明にぶつかったり、そうかと思うと、思わず作者バルザックに対する疑いを喚び覚まされるような大仰な、出来合いの大古典時代めいた形容詞を羅列した文章に足を絡まれる。非・・・ 宮本百合子 「バルザックに対する評価」
・・・みたいなものと、船じるし、松飾りをした船とが、しっくりとつり合って、絵にでも書いて置きたい様に見える。 春先の様に水蒸気が多くないので、まるで水銀でもながす様に、テラテラした海面の輝きが自然に私の眼を細くさせる。 この海からの反射光・・・ 宮本百合子 「冬の海」
出典:青空文庫