島木さんに最後に会ったのは確か今年の正月である。僕はその日の夕飯を斎藤さんの御馳走になり、六韜三略の話だの早発性痴呆の話だのをした。御馳走になった場所は外でもない。東京駅前の花月である。それから又斎藤さんと割り合にすいた省・・・ 芥川竜之介 「島木赤彦氏」
・・・ 同じ様に、越前国丹生郡天津村の風巻という処に善照寺という寺があって此処へある時村のものが、貉を生取って来て殺したそうだが、丁度その日から、寺の諸所へ、火が燃え上るので、住職も非常に困って檀家を狩集めて見張となると、見ている前で、障子が・・・ 泉鏡花 「一寸怪」
・・・島崎藤村。島木健作。出稼人根性ヤメヨ。袋カツイデ見事ニ帰郷。被告タル酷烈ノ自意識ダマスナ。ワレコソ苦悩者。刺青カクシタ聖僧。オ辞儀サセタイ校長サン。「話」編輯長。勝チタイ化ケ物。笑ワレマイ努力。作家ドウシハ、片言満了。貴作ニツキ、御自身、再・・・ 太宰治 「創生記」
拝復。島木さんの事について何か書くようにとの御手紙を頂きましたので、考えてはみましたが、私は同氏から稀に御手紙は頂戴しておりましたものの、御目にかかったのは前後にただ一度だけ、それも宴会の席上でちょっと御挨拶をしたばかりで・・・ 寺田寅彦 「書簡(1[#「1」はローマ数字1、1-13-21])」
・・・その小説集には島木健作「癩」、平田小六という「囚われた大地」という長篇小説をかいた元隆章閣の人などもはいっているし、婦人作家では私のほかにいね子[自注16]、松田さん[自注17]なども居ります。藤島まきという作家も出ました。文学におけるリア・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・ 島木、阿部という作家たちの読まれかたも、初めの頃は何かを人生的な欲求として求めている読者の心理をとらえて、しかも現実の答えとしては背中合せの本質をもつ作品が与えられていたのであったが、現実への作者たちの向きかたは、その作品の世界の・・・ 宮本百合子 「今日の読者の性格」
・・・を発表した島木健作氏のそれにつづく獄中生活者を描いた作品は、従来のプロレタリア文学に欠けていた人間描写とインテリゲンツィアの良心を語る、目新しいものとして一般からよろこばれた。これらの作品の題材の特異性、特異性を活かすにふさわしい陰影の濃い・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・ これまでとはちがう意味での文学的啓蒙が日本の文化にとってどんなに必要かということは、二年前ともかく知性の作家と称して売れた阿部知二氏の売れゆきは去年でぐっと減って、島木健作氏さえ本年にかけて石川達三氏に売れゆきを隔絶的に凌駕されている・・・ 宮本百合子 「昭和十五年度の文学様相」
・・・等によって作家としての活動を始めた島木健作の芸術にも独自な姿で反映している。 石坂洋次郎の「若い人」の芸術性にもこれが貫いている。この二人の作家の時代的な本質については、後にやや詳しく触れることとして、当時のこのような心理は、他の角度に・・・ 宮本百合子 「昭和の十四年間」
・・・ この座談会の席上で、島木氏や徳永氏によってプロレタリア文学作品の一つの発展的タイプとして「プロレタリア的な単純な明朗性を持った作品」「単純な、明快な言葉で判りよく、しかも芸術的な」作品が翹望されている。そのような作品に対する評価の点で・・・ 宮本百合子 「新年号の『文学評論』その他」
出典:青空文庫