・・・この玄関払の使命を完うしたのがペンである。自分は嘘をつくのは嫌だ。神さまにすまない。しかし主命もだしがたしでやむをえず嘘をついた。まずたいていここら当りだろうと遠くの火事を見るように見当をつけてようやく自分の部屋へ引き下った。我輩のトランク・・・ 夏目漱石 「倫敦消息」
・・・各国家が何処までも他を従えることによって、自己自身を強大にすることが歴史的使命と考えた。そこには未だ国家の世界史的使命の自覚というものに至らなかった。国家に世界史的使命の自覚なく、単なる帝国主義の立場に立つかぎり、又逆にその半面に、階級闘争・・・ 西田幾多郎 「世界新秩序の原理」
・・・ アジア婦人会議に出席する日本の代表たちは、他の諸国の代表の誰よりも、まじめで重大な使命を負っています。なぜならば、機会ある毎にアジア民族の解放を妨げることしかしてこなかった日本の帝国主義は、こんにちでも決してその根拠と、協力する勢力を・・・ 宮本百合子 「新しいアジアのために」
・・・その結果十人足らずの氏名があげられたということであった。「ある回想から」という私の文章のなかで割合くわしくふれているけれども、中野と私とは内務省へ行ってそういう理由のはっきりしない執筆禁止について抗議した。それから、私は、当時、保護観察・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第五巻)」
・・・プロレタリアートが、歴史の推進力となる階級であることは主張されていたが、進歩的な小市民・インテリゲンツィアが革命の道ゆきにどのような位置と使命とをもっているかということについて、まだ科学的な判断が生活と文学との具体的なありかたではっきりさせ・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第六巻)」
・・・第一、特定の人々を指名したわけではなかったのに、ジャーナリストの中の誰かが、漠然と暗示されたのでは編集上不安心で困ると、やかましくいって、役人側にリストを公表させたのだという説明であった。「実際のことは、事務官があつかっていますから、た・・・ 宮本百合子 「ある回想から」
・・・恩愛も、血縁も、人格的なつながりもない……から死命を制せられている自分!」うたい上げられた調子はあるが沈潜して読者の心をうち、ともに憤激せしめる迫力は欠けている。 皮相的な、浮きあがった表現の著しい例をわれわれは、この小説のクライマック・・・ 宮本百合子 「一連の非プロレタリア的作品」
・・・先生が指名しましたか。其とも級として自由に選んだでしょうか。級として自由に選ぶことが出来たのなら、自分たちの選んだ級長にあき足りない点があるとき、それはとりも直さず、そういう不満のある人を選み出した自分たちの責任であると、知ることが出来なく・・・ 宮本百合子 「美しく豊な生活へ」
・・・若し、子を産む事のみが結婚の全的使命であり、価値であるならば、或場合、非常に相互の魂を啓発し、よき生活に導き合った一対の夫婦が、一人の子をも持たなかった場合、其等の人々の経た結婚生活の価値は如何う定められるべきなのだろう。 彼等の運・・・ 宮本百合子 「黄銅時代の為」
・・・進行中の長篇は起伏を通じて労働者階級の歴史的使命の展望にたって書かれている。どんなに見かけのいい形容詞に飾られようと、小市民作家として完成するために私は党の列伍に加ったのではない。 投書に答えたことばじりをとらえて、私が文化反動との闘争・・・ 宮本百合子 「河上氏に答える」
出典:青空文庫