・・・ 自分に生活の、愛の確信があり、自分と彼女との性格的差異を熟知して居るばかりで、私は辛うじて今の心持を支えて居る。 支えて居なければならない必要が、果してあるのだろうか。 ○ 高い、堅い二つの絶壁の間・・・ 宮本百合子 「傾く日」
・・・ 人間にも、顔の異るように性格の差異がある。小鳥も羽色の異う以上それの無いことはないであろう。あるものと仮定して、私の観察は意味を生ずる。 人間の日常生活が、男といい、女という性の異いに有形無形、どれほどの影響を受けているか、やかま・・・ 宮本百合子 「小鳥」
・・・の多数がその生活態度と文学との上に拠りどころを失って、批判の欠けた文学をつくり出し、所謂文壇の拍手の高低によって心持を左右されることの少くないようなのに対して、一般民衆の裡にあるプロレタリア文学の質的差異に関する判断は、素朴ながら或る意味で・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・のみならず、婦人に向っても、何等の差異なしに開かれて居る生活の道程は、我国の婦人の強いられる極端な謙遜も卑屈さも味わせません。 彼等は、仕たい勉強が出来、生きたい形式で生き、愛すべき者を愛す権利を持って居ります。 此の生きたい形式で・・・ 宮本百合子 「C先生への手紙」
・・・ 芸術家の個性により、微妙な色と角度との差異はあっても等しく内に、何等かの調和律を持たないものは無かろう。真心を以て芸術に参するものは、自己に許された範囲に於て、最大・最高の諧調を見出したいという祈願を、片時も捨てかねるものと思う。然し・・・ 宮本百合子 「透き徹る秋」
・・・私共が箇性的差異として、各自の国民性を持ちながらも、世界人として生活し始めた今日、世界各処に発生し、発達した種々な生活意識、様式を、悉く、人の価値、人の理想と云う眼界にまで敷衍して考えたいと思います。 故に、或る観念に刺衝せられた場合の・・・ 宮本百合子 「男女交際より家庭生活へ」
・・・ 隅から隅までたんのうした彼女は、今までの周囲と比較すれば、問題にもならないほどの趣味性の差異が齎らすどこともいわれない大らかな雰囲気のうちに、ホコッと眼を瞑り、頭を垂れて浸って行ったのである。 不自然な重圧をようようとりのけられた・・・ 宮本百合子 「地は饒なり」
・・・ 日本のように、資本主義独裁と白色テロールの旺盛なところで、階級闘争は激化し、イディオロギー的差異は有無を云わせず作家の陣営を決定しつつある。既に一九二七年、右翼的固執を示した労芸の内部の情勢が三年間停止している筈はない。前田河が発表す・・・ 宮本百合子 「ニッポン三週間」
・・・は、内容に、種々な価値の問題、教育、宗教に対する考察、或は子供と大人の世界の差異に対する精密な観察等が含まれているにも拘らず、芸術品として、読者の心に喚起した創造的な共鳴は、矢張り、貴女の御作に接せずには得られない、一種の人格的精神感銘であ・・・ 宮本百合子 「野上彌生子様へ」
・・・つまり、芸術家と普通人との間には、如何に、物象の観方に純粋さの差異があるか、又、その差異が、一種常套的な道徳感のようなものと結合して、一般人の胸からは、如何程抜き難いものになって居るか、と云うことの反省である。 事なら事を、其自体、人間・・・ 宮本百合子 「二つの家を繋ぐ回想」
出典:青空文庫