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・・・と呼ぶと、駕籠の中で、しゃっきりと天窓を掉立て、「唯今、それへ。」 とひねこびれた声を出し、頤をしゃくって衣紋を造る。その身動きに、鼬の香を芬とさせて、ひょこひょこと行く足取が蜘蛛の巣を渡るようで、大天窓の頸窪に、附木ほどな腰板が、・・・
泉鏡花
「国貞えがく」
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・・・息子との間は、生活的本質で断たれっぱなしで、そこはそれなりで、しゃっきり腰をひき立てた允子の姿は、人間的豊富さにおいて物足りない。 野上彌生子氏の「若い息子」における母の感情を、允子の場合と比べて、感じるものがあるのは私一人ではないだろ・・・
宮本百合子
「山本有三氏の境地」