・・・そうかと云って彼は有りふれの社会主義者でもなければ共産党でもない。彼の説だというのに拠れば、社会の祝福が単に制度をどうしてみたところでそれで永久的に得られるものではない。ただ銘々の我慾の節制と相互の人間愛によってのみ理想の社会に到達する事が・・・ 寺田寅彦 「アインシュタイン」
・・・それらの間の優劣を区別する場合の目標は、著者の主観によって選まれた問題の構成のしかたとその解法の選択いかんによって決定されるのであって、この優劣判断の際には、また審判者の個性のいかんによって、必ずしも衆議一決というわけに行かない場合がある。・・・ 寺田寅彦 「科学と文学」
・・・子供等もこの発見にひどく興味を感じて、帰路にもう一遍よく見定めようということに衆議一決した。 国府津と小田原の中間に「雀の宮」という駅があったようだと子供達と話していたら、国府津駅の掲示板を見ていた子供の一人からそれは「鴨の宮」だという・・・ 寺田寅彦 「箱根熱海バス紀行」
・・・ それと事がらは別だが、いわゆる輿論とか衆議の結果というようなものが実際に多数の意見を代表するかどうか疑わしい場合がはなはだ多いように思う。それから、また志士や学者が言っているような「民衆」というような人間は捜してみると存外容易に見つか・・・ 寺田寅彦 「春六題」
・・・いくら猫でもそれは残酷な事で不愉快であったが、追放の衆議の圧迫に負けてしまってとうとう入院させて手術を受けさせた。 手術後目立っておとなしく上品にはなったが、なんとなく影の薄い存在となったようである。それからまもなくある日縁側で倒れて気・・・ 寺田寅彦 「備忘録」
・・・ゾラの小説にある、無政府主義者が鉱山のシャフトの排水樋を夜窃に鋸でゴシゴシ切っておく、水がドンドン坑内に溢れ入って、立坑といわず横坑といわず廃坑といわず知らぬ間に水が廻って、廻り切ったと思うと、俄然鉱山の敷地が陥落をはじめて、建物も人も恐ろ・・・ 徳冨蘆花 「謀叛論(草稿)」
・・・彼らは三吉らより五つ六つ年輩でもあり、土地の顔役でもあって、普通選挙法実施の見透しがいよいよ明らかになると、露骨に彼ら流儀の「議会主義」へとすすんでいた。「竹びしゃくなんかつくらんでも、わしが工場ではたらくがええ」 高坂がそういって・・・ 徳永直 「白い道」
・・・ わたくしは西洋種の草花の流行に関して、それは自然主義文学の勃興、ついで婦人雑誌の流行、女優の輩出などと、ほぼ年代を同じくしていたように考えている。入谷の朝顔と団子坂の菊人形の衰微は硯友社文学とこれまたその運命を同じくしている。向島の百・・・ 永井荷風 「葛飾土産」
大抵のイズムとか主義とかいうものは無数の事実を几帳面な男が束にして頭の抽出へ入れやすいように拵えてくれたものである。一纏めにきちりと片付いている代りには、出すのが臆劫になったり、解くのに手数がかかったりするので、いざという・・・ 夏目漱石 「イズムの功過」
世界はそれぞれの時代にそれぞれの課題を有し、その解決を求めて、時代から時代へと動いて行く。ヨウロッパで云えば、十八世紀は個人的自覚の時代、所謂個人主義自由主義の時代であった。十八世紀に於ては、未だ一つの歴史的世界に於ての国家と国家との・・・ 西田幾多郎 「世界新秩序の原理」
出典:青空文庫