・・・ よりも、第三金時丸に最も大切なことは、そのサイドを修理することではなかったか。錨を巻き上げる時、彼女の梅毒にかかった鼻は、いつでも穴があくではないか。その穴には、亜鉛化軟膏に似たセメントが填められる。 だが、未だ重要なることはなかった・・・ 葉山嘉樹 「労働者の居ない船」
・・・先日の雨に此処の地盤が崩れたと見えて、こおろぎの声が近く聞えるのだが誰も修理に来る者なぞはありゃしない。オヤ誰か来やがった。夜になってから詩を吟じながらやって来るのは書生に違いないが、オヤおれの墓の前に立って月明りに字を読んで居やがるな。気・・・ 正岡子規 「墓」
・・・ か何かで修理するために子供らは皆教室につまっていたのです。運動場ができたら、まるで雀の巣が百千あるようです。しかし、そのワヤワヤワヤはまだいいので、こまるのは体操。ここの体操の先生はいやにリズミカルで、机に向っていると勢よく、「さーア手を・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
法隆寺が焼けて、あの見ごとな壁画が修理もきかないほどひどくなってしまった。されに新聞記事を見たとき、わたしの胸のなかで大きななみがくずれた感じがした。有名であったり、国宝であったりしても美しくない美術品もある。法隆寺の壁画・・・ 宮本百合子 「国宝」
・・・モスクワ市街が急激に様子を変えはじめて今はもうそこが立派に修理され、新聞社と出版労働者の倶楽部になって、夜は音楽が私の窓へもつたわって来るのである。 ひととおりフランスやイギリスなどの大衆の生活ぶりを見てまたモスクワへ帰って来てから、二・・・ 宮本百合子 「坂」
出典:青空文庫