・・・しあわせな事には世の中では論理的の証明はわりに要求されないで、オーソリティの証言が代用されそのおかげで物事が渋滞なく進捗するのであろう。 自画像をかきながら思うようにかけない苦しまぎれに、ずいぶんいろんな事を考えたものである。それを・・・ 寺田寅彦 「自画像」
・・・させて、被告と見物に気をもませ、被告に不利な証人だけを選りぬいて登場させる、弁護士にはなるべく口が利けないようにするが、但し後の伏線になるようにアパートの時計が二十分進んでいたというアパート掃除婦の新証言をつかまえさせて後に警察医の鑑定と対・・・ 寺田寅彦 「初冬の日記から」
・・・呼び出されたボーイの証言によると、昨夜この催眠薬を買って来いというので、一度買って帰ったが、もっとたくさん買って来いという、そんなに飲んだら悪いだろうと言ってみたが、これがないと、どうしても眠られない、飲まないと気が違いそうだからぜひにと嘆・・・ 寺田寅彦 「B教授の死」
・・・ そこで二人の証言から互いに一致する諸点を総合してみると、だいたい次のようなものである。 ベランダから池の向こうの踊り場を正視していたときに、正面から左方約四十五度の方向で仰角約四十度ぐらいの高さの所を一つの火の玉が水平に飛行したと・・・ 寺田寅彦 「人魂の一つの場合」
・・・ 七 知名の人の葬式に出た。 荘厳な祭式の後に、色々な弔詞が読み上げられた。ある人は朗々と大きな声で面白いような抑揚をつけて読んだが、六かしい漢文だから意味はよく分らなかった。またある人は口の中でぼしゃぼしゃ・・・ 寺田寅彦 「鑢屑」
・・・しかしその標準を云うとまず荘厳に対する情操と云うてよろしかろうと思います。 これで文芸家の理想の種類及びその説明はまず一と通り済みました。概括すると、一が感覚物そのものに対する情緒。二が感覚物を通じて知、情、意の三作用が働く場合でこれを・・・ 夏目漱石 「文芸の哲学的基礎」
・・・畢竟するに女大学記者が男尊女卑の主義を張らんとして其根拠なきに苦しみ、纔に古の法なるものを仮り来りて天地など言う空想を楯にし、論法を荘厳にして以て女性を圧倒し、無理にもこれを暗処に蟄伏せしめんとの窮策に出でたるものと言う可し。既に男尊女卑と・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
・・・学的作品が、若し男性の手に成ったそれに比して常に第二流の芸術的価値ほか持ち得ないものとしたら、それはつまり女性が、人及び芸術家として、充分の創造をなし能う丈の人格も、生活をも持っていないと云う、一部の証言に成るのではないだろうか。而も、自分・・・ 宮本百合子 「概念と心其もの」
・・・ 空は荘厳な幅広い焔のようだ。重々しい、秒のすぐるのさえ感じられるような日盛りの熱と光との横溢の下で、樹々の緑葉の豊富な燦きかたと云ったら! どんな純粋な油絵具も、その緑玉色、金色は真似られない、実に燃ゆる自然だ。うっとり見ていると肉体がい・・・ 宮本百合子 「この夏」
・・・ところが比叡子が、殺人を犯させたのは自分であるなどと証言するのは、やはり左翼的な、合理的な、考え方に慣らされているのから出て来た解釈です。左翼の人は、日本とソビエットとを問わず、この合理的解釈を持っていますから、時とすると、真相を理解するこ・・・ 宮本百合子 「作家のみた科学者の文学的活動」
出典:青空文庫