・・・しかも、発言をおさえる傾向が、民主的批評家はやっつけるだけ、という風な自己評価から出発しているとすれば、批評家は、自分たちの批評の方法について、重大な省察と再検討をするべきであったと思う。だが、それはなされなかった。波は岩の上をザーと流れた・・・ 宮本百合子 「現代文学の広場」
・・・章子自身それを心得てうわてに笑殺しているのであろうが、ひろ子は皆が寄ってたかって飽きもせずそれをアハアハ笑い倒しているのを見るといい気持がしなかった。ひろ子は先へ自分だけ二階に引かえした。そこここに着物の散らばっている座敷の床柱に靠れ、皆の・・・ 宮本百合子 「高台寺」
・・・大衆が笑殺する。それで根っきり葉っきり済んでしまう程、現実の階級闘争は単純でない。事実が単純でない以上、大衆がいつの間にかあの憎むべき変通自在性を過少評価するような固定した形にだけ様式化して扱うのは危険だ。―― この事は、あらゆる芸術の・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェトの芸術」
・・・によらなければならないとすれば、歴史小説における時空的な力の過度な評価ということは、益々戒心をもって省察されなければならなくなって来る。目前の事象の圧力が人間精神の自立性に対してそのように現われているとすれば、同時に現実は複雑だからそれへの・・・ 宮本百合子 「今日の文学の諸相」
・・・対しては二つの端に立ちつつも、世俗的な常識に対して戦う態度は相通じたものをもっており、同時に、反撥し或は評価する自身の態度とともに、対象となる既定の文化・文学的教養そのものの歴史的な本質については深い省察を加えないところも、共通であった。・・・ 宮本百合子 「作家と教養の諸相」
・・・ 其処で、私は、自分達と同じ女性であるという点から、一層公平に、彼女等の讚すべき美くしさと、尊さとを称すと倶に、彼女等の持って居る人間らしい欠点に就ても静かな省察を試みたいのでございます。 彼女等も人間以外の何物でもございません。・・・ 宮本百合子 「C先生への手紙」
・・・ 一九一二年頃から、陪審員としてルアンの重罪裁判に列席するようになり、ジイドの人間の行動、心理の推移に対する関心は、次第に自分の内部省察から、そとの人々の方に向けられて来た。一九二五年のコンゴへの旅行は、資本主義国における植民地経営の裏・・・ 宮本百合子 「ジイドとそのソヴェト旅行記」
・・・又は所謂家庭を守る、ということの真の意義、真に聰明な洞察は果してどういうところにあるのであろうかということについての、真面目な省察を促がされるところにあると思う。世俗的なかためかたでは、現実の推移がもたらす主観的な幸、不幸はふせげない。終極・・・ 宮本百合子 「ジャンの物語」
・・・ そういうふうにつきつめてくると『新日本文学』が、これまで社会主義的リアリズムの問題について、その歴史的省察ならびに今日での民主主義文学との関係について、系統的に詳細に解明や研究をあまりしてきていないことについて、考えなおす必要が感じら・・・ 宮本百合子 「一九四六年の文壇」
・・・ 何の力にすがって、刻々の自分の殼を破ってゆくかと云えば、人生的文学的な自己省察であり、そのようなきびしいたゆみない自己省察は人間の生きつづける歴史の継続としてのこの人生と文学とに期するところがなければ生じるものではないであろう。大いに・・・ 宮本百合子 「地の塩文学の塩」
出典:青空文庫