・・・すると、私がずっと子供の時分からもっていた思想の傾向――維新の志士肌ともいうべき傾向が、頭を擡げ出して来て、即ち、慷慨憂国というような輿論と、私のそんな思想とがぶつかり合って、其の結果、将来日本の深憂大患となるのはロシアに極ってる。こいつ今・・・ 二葉亭四迷 「予が半生の懺悔」
・・・これは去年病中に『水滸伝』を読んだ時に、望見前面、満目蘆花、一派大江、滔々滾々、正来潯陽江辺、只聴得背後喊叫、火把乱明、吹風胡哨将来、という景色が面白いと感じて、こんな景色が俳句になったら面白かろうと思うた事があるので、川の景色の聯想から、・・・ 正岡子規 「句合の月」
・・・水さえ来るならきっと将来は反当三石まではとれるようにできると思う。午后一時に約束の通り各班が猿ヶ石川の岸にあるきれいな安山集塊岩の露出のところに集った。どこからか小梨を貰ったと云って先生はみんなに分けた。ぼくたちはそこで地図を塗りな・・・ 宮沢賢治 「或る農学生の日誌」
・・・こういう点も、私の素人目に安心が出来るし、将来大きい作品をつくって行く可能性をもった資質の監督であることを感じさせた。 この作品が、日本の今日の映画製作の水準において高いものであることは誰しも異議ないところであろうと思う。一般に好評であ・・・ 宮本百合子 「「愛怨峡」における映画的表現の問題」
・・・勇吉達は生来の働きてだから、もち論身体の弱い野良仕事にも出られないような若者を家に入れるはずはない。充分野良のかせぎは出来て、厄介な、一年二年兵隊にとられることだけは免れそうな若者という念の入った婿選びをした――簡単にいえば、清二という若者・・・ 宮本百合子 「田舎風なヒューモレスク」
・・・ 親たちの日常生活は勤労階級の生活でなく、母親は若い頃からの文学的欲求や生来の情熱を、自分独特の型で、些か金が出来るにつれ、その重みも加えて突張って暮して来た。社会の実際とは遠くあった。弘道会という今日では全く反動的な会へ、自分の父親が・・・ 宮本百合子 「刻々」
・・・彼とその一派が羊頭をかかげて狗肉を売らない日を招来しようとすれば「ボァリー夫人」にはじまる十九世紀の自然主義からロシアの批判的なリアリズムを通じてレマルクが「西部戦線異状なし」から「凱旋門」に至ったヨーロッパ――フランス、ドイツの恐ろしい三・・・ 宮本百合子 「五〇年代の文学とそこにある問題」
・・・真柄さんは獄中の事実を書く時、生来の陽気性と親ゆずりの鈍感性のため、獄中生活が一生を左右する程のききめをもたなかったから、さも親しそうに監獄の生活について話せると云っておられるが、全文に微妙な神経質さ、嫌悪、その反動としての皮肉的語気が仄見・・・ 宮本百合子 「是は現実的な感想」
・・・ゴーリキイをしてしかく人類的な光彩ある活動と、才能の満開とを可能ならしめた社会の文化的条件を想い、翻ってその招来のためにゴーリキイが作家的出発の当初から共に労して来た歴史の推進力との相互的関係に思い潜めて、それぞれの国における歴史と文化との・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・ 今日文学が作者の念願しているだけ十分にリアリスティックであり得ないという実際の事情は普遍的だから、誰しも身にひき添えて肯けるのであるけれども、それを理由にいきなりロマンティックな文学時代の招来へ飛躍されるのは、文学の問題としてみると、・・・ 宮本百合子 「作家と時代意識」
出典:青空文庫