・・・水が凍らないように、長い棒でしょっちゅう水面をばしゃばしゃかきまぜ、叩いていた。白鬚まじりの鬚に氷柱をさがらした老人だった。 税関吏と、国境警戒兵は、そのころになると、毎年、一番骨が折れた。一番油断がならなかった。黒河からやってくる者た・・・ 黒島伝治 「国境」
・・・で、しょっちゅう按摩を呼んでいた。年末にツケを見ると、それだけでも、かなり嵩ばっていた。それに正月の用意もしなければならない。 自分の常着も一枚、お里は、ひそかにそう思っていたが、残り少ない金を見てがっかりした。清吉は、失望している妻が・・・ 黒島伝治 「窃む女」
・・・そこには、死者が、しょっちゅうあこがれていた太陽の光が惜しげなく降り注いでいた。死者の女房は、群集の中から血なまぐさい担架にすがり寄った。「千恵子さんのおばさん死んだの。」「これ! だまってなさい!」 無心の子供を母親がたしなめ・・・ 黒島伝治 「土鼠と落盤」
・・・「これも、しょっちゅう御隠居さんのお噂ばかり」と金太郎はちょっとお力の方を見て、「この九月一日には、私共も集りまして、旦那に、先生に、それから私共夫婦と、四人で記念にビイルなぞを抜きました」「大方そんなことだろうッて、浦和でもお噂し・・・ 島崎藤村 「食堂」
・・・そうしてこの子は、しょっちゅう、おなかをこわしたり、熱を出したり、夫は殆ど家に落ちついている事は無く、子供の事など何と思っているのやら、坊やが熱を出しまして、と私が言っても、あ、そう、お医者に連れて行ったらいいでしょう、と言って、いそがしげ・・・ 太宰治 「ヴィヨンの妻」
・・・ 私は苦笑し、お茶を注いで出した。「お前は俺と喧嘩した事を忘れたか? しょっちゅう喧嘩をしたものだ」「そうだったかな」「そうだったかなじゃない。これ見ろ、この手の甲に傷がある。これはお前にひっかかれた傷だ」 私はその差し伸べ・・・ 太宰治 「親友交歓」
・・・このごろ、しょっちゅう、死にたい死にたいと思います。そうしては、玻璃子の事が思い浮んで来て、なんとかしてねばって、生きていなければならぬと思いかえします。こないだうち、泣くと耳にわるいと思って、がまんにがまんしていた涙を、つい二、三日前、こ・・・ 太宰治 「水仙」
・・・ 最初の女房は、これはまあ当時の文学少女とでもいうべき、眼鏡をかけて脳の悪い女でしたが、これがまた朝から夜中まで、しょっちゅう私に、愛しかたが足りない、足りない、と言って泣き、私もまことに閉口して、つい渋い顔になりますと、たちまちそ・・・ 太宰治 「男女同権」
・・・その娘が、海軍に行っている男の子と手紙で甲府の家の事に就いてしょっちゅうこまごまと相談し合っている様子であった。私はその二人の義兄という事になっているわけだが、しかし、義兄なんてものは、その家に就いて何の実権のあるわけはない。実権どころか、・・・ 太宰治 「薄明」
・・・人たちばかりだから、あなたに来るなとも言えないで、ずいぶん困っているようだったから、あたしがあなたのお家へ行って、あなたのお母さんと、あなたの妹さんと、それからあなたと三人のいらっしゃる前で、あんなにしょっちゅうおいでになっては、ひとからへ・・・ 太宰治 「冬の花火」
出典:青空文庫