・・・ てんでんにつつみをしょってかけ出した人も、やがて往来が人一ぱいで動きがとれなくなり、仕方なしに荷をほうり出す、むりにせおってつきぬけようとした人も、その背中の荷物へ火の子がとんでもえついたりするので、つまりは同じく空手のまま、やっとく・・・ 鈴木三重吉 「大震火災記」
・・・ どっこいしょの、うんとこしょって意味なんだ。フロオベエルは、この言葉一つに、三箇月も苦心したんだぞ。」 ああ、思えば不思議な宵であった。人生に、こんな意外な経験があるとは、知らなかった。私は二人の学生と、宵の渋谷の街を酔って歩いて、失・・・ 太宰治 「乞食学生」
・・・作家は、気取って、おしゃれな言葉を使っている。しょっている。 でも、みんな、なかなか確実なことばかり書いてある。個性の無いこと。深味の無いこと。正しい希望、正しい野心、そんなものから遠く離れている事。つまり、理想の無いこと。批判はあって・・・ 太宰治 「女生徒」
・・・犬を連れ、鉄砲をしょって、山を歩きまわった。いい画をかきたい。いい画家になりたい。その渇望が胸の裏を焼きこがして、けれども、弱気に、だまっていた。 高野さちよは、山の霧と木霊の中で、大きくなった。谷間の霧の底を歩いてみることが好きであっ・・・ 太宰治 「火の鳥」
・・・或る日、私は義憤を感じて、「兄さん、たまにはリュックサックをしょって、野菜でも買って来て下さいな。よその旦那さまは、たいていそうしているらしいわよ。」 と言ったら、ぶっとふくれて、「馬鹿野郎! おれはそんな下品な男じゃない。いい・・・ 太宰治 「雪の夜の話」
・・・二人とも巨きな背嚢をしょって地図を首からかけて鉄槌を持っている。そしてまだまるでの子供だ。(どっちからお出(郡から土性調査をたのまれて盛岡(田畑の地味のお調 老人は眉を寄せてしばらく群青いろに染まった夕ぞらを見た。それか・・・ 宮沢賢治 「泉ある家」
・・・ すると向うのすすきの中から、荷物をたくさんしょって、顔をまっかにしておかみさんたちが三人出て来ました。見ると、五つ六つより下の子供が九人、わいわい云いながら走ってついて来るのでした。 そこで四人の男たちは、てんでにすきな方へ向いて・・・ 宮沢賢治 「狼森と笊森、盗森」
・・・ せなかに草束をしょった二匹の馬が、一郎を見て鼻をぷるぷる鳴らしました。「兄な、いるが。兄な、来たぞ。」一郎は汗をぬぐいながら叫びました。「おおい。ああい。そこにいろ。今行ぐぞ。」ずうっと向こうのくぼみで、一郎のにいさんの声がし・・・ 宮沢賢治 「風の又三郎」
・・・それからまたその神にそむく罪はわたくしひとりでしょってぜひとも助けてあげようと思いました。けれどもどうして見ているとそれができないのでした。子どもらばかりボートの中へはなしてやってお母さんが狂気のようにキスを送りお父さんがかなしいのをじっと・・・ 宮沢賢治 「銀河鉄道の夜」
・・・おとうさんが帰って来たのかと思って、ブドリがはね出して見ますと、それは籠をしょった目の鋭い男でした。その男は籠の中から丸い餅をとり出してぽんと投げながら言いました。「私はこの地方の飢饉を助けに来たものだ。さあなんでも食べなさい。」二人は・・・ 宮沢賢治 「グスコーブドリの伝記」
出典:青空文庫