・・・合気の術は剣客武芸者等の我が神威を以て敵の意気を摧くので、鍛錬した我が気の冴を微妙の機によって敵に徹するのである。正木の気合の談を考えて、それが如何なるものかを猜することが出来る。魔法の類ではない。妖術幻術というはただ字面の通りである。しか・・・ 幸田露伴 「魔法修行者」
・・・伝説に依ると、水内郡荻原に、伊藤豊前守忠縄というものがあって、後堀河天皇の天福元年(四条天皇の元年で、北条泰時にこの山へ上って穀食を絶ち、何の神か不明だがその神意を受けて祈願を凝らしたとある。穀食を絶っても食える土があったから辛防出来たろう・・・ 幸田露伴 「魔法修行者」
・・・彼女の真意では、しばらく蜂谷の医院に養生した上で、是非とも東京の空まではとこころざしていた。東京には長いこと彼女の見ない弟達が居たから。 蜂谷の医院は中央線の須原駅に近いところにあった。おげんの住慣れた町とは四里ほどの距離にあった。彼女・・・ 島崎藤村 「ある女の生涯」
・・・それを持ち出して、伜の真意を聞こうとした。 新七は言った。「お母さんは――結局どういうことを言おうとするつもりなんですかね」 昔者のお三輪には、そう若い人達の話すように、思うことが思うようには言い廻せなかった。どうかすると彼女は・・・ 島崎藤村 「食堂」
・・・生れて、はじめて、自愛という言葉の真意を知った。エゴイズムは、雲散霧消している。 やさしさだけが残った。このやさしさは、ただものでない。ばか正直だけが残った。これも、ただものでない。こんなことを言っている、おめでたさ、これも、ただもので・・・ 太宰治 「一日の労苦」
・・・なぜ私に送って下さるのか、その真意を解しかねた。下劣な私は、これを押売りではないかとさえ疑った。家内にも言いきかせ、とにかく之は怪しいから、そっくり帯封も破らずそのままにして保存して置くよう、あとで代金を請求して来たら、ひとまとめにして返却・・・ 太宰治 「酒ぎらい」
・・・けれども、次の言葉で、真意が判明し苦笑した。「しかし、こないだの選挙では、お前も兄貴のために運動したろう」「いや、何も、ひとつも、しなかった。この部屋で毎日、自分の仕事をしていた」「嘘だ。いかにお前が文学者で、政治家でないとして・・・ 太宰治 「親友交歓」
・・・かれは落第生で、不勉強家であるから、サタンという言葉の真意を知らず、ただ、わるい人という意味でその言葉を使ったのに違いない。私は、わるい人であろうか、それを、きっぱり否定できるほど私には自信が無かった。サタンでは無くとも、その手下に悪鬼とい・・・ 太宰治 「誰」
・・・私は女の帰った真意を、解することが、できなかった。おのれの淪落の身の上を恥じて、帰ってしまったものとばかり思っていたのである。 いまは、すべてに思い当り、年少のその早合点が、いろいろ複雑に悲しく、けれども、私は、これを、けがらわしい思い・・・ 太宰治 「デカダン抗議」
・・・をめぐって何か話をすすめるという事になったならば、作者の真意はどうあろうと、結果に於いては、汚い手前味噌になるのではあるまいか、映画であったら、まず予告篇とでもいったところか、見え透いていますよ、いかに伏目になって謙譲の美徳とやらを装って見・・・ 太宰治 「鉄面皮」
出典:青空文庫