・・・「私には不思議に思われます、真個に不思議に――。考えて御覧遊ばせ。私共はお互に独身で、本当の心から愛し合って、結婚しようとして居る。そう云う人々が一日中沢山の時を一緒に過したり、一緒に歩いたりすることが其那に騒ぎな、何かいけない・・・ 宮本百合子 「結婚問題に就て考慮する迄」
・・・物が真個に書ける時私は、うれしく働ける。生きることの ありがたさ。何故いつも、斯様にはあらぬか わが、こころ。 *あわれな、わが、こころ、歓びに躍り悲しみに打しおれいつも・・・ 宮本百合子 「五月の空」
・・・そして、「あら、真個にお飼いになるの」と云う間もなく、可愛い二羽のべに雀と、金華鳥、じゅうしまつなどを、持ち運びの出来る小籠で、大切そうに運び込んだのである。 私は悦び、額をつけて中を覗いた。子供の時、弟が、カナリアと鶏、鳩など・・・ 宮本百合子 「小鳥」
・・・を講義していても、講義し切れないものがあるのだから恐ろしい。真個にひとのことではないと思う。さて、此から私の書き並べて行こうとする本の中で真個に読んだのは極小部分である。其れ等の本を近いうちに読んで見たいと思っているのであるから、此処に其名・・・ 宮本百合子 「最近悦ばれているものから」
・・・つまり、私は漸々自分に生きて来たのでございましょう。真個に足を地につけて、生き物として生き始めたとでも申しましょうか。今までの私は、生きると云う事を生きて来たのだと申さずには居られません。 概念と、只、自分のみの築き上げた象牙の塔に立て・・・ 宮本百合子 「C先生への手紙」
・・・其等の欠点に対しての自分は、真個に何処までも謙譲ではありますけれども、此頃になって、あの作は私の一生の生活を通してかなり大切なものになって来ました。そして、その大切なものとなった原因は、自分にとってあの作を、彼程満足出来ないものとした全く同・・・ 宮本百合子 「沁々した愛情と感謝と」
ジムバリストの演奏をきき、深く心に印されたことは、つまり芸術は、どんな種類のものでも、真個のよさに至ると、全く同じような感動、絶対性を持っていると云うことです。自分は、まるで素人で、楽譜に対する知識さえ持っていませんでした・・・ 宮本百合子 「ジムバリストを聴いて」
・・・そうだ。真個にそうである。 何に、彼那人が彼那事を云ったって、自分の生命の価値に何の損失も与える事は出来ないのだ、とは思う。又思うのみならず其を信じて疑わない。けれども、信じ安じるべきであるに拘らず、その不愉快さは依然としてドス黒いかた・・・ 宮本百合子 「樹蔭雑記」
・・・ 書斎は、何処やらどっしりしたのが好きですけれども、客間食堂は、真個にくつろいだ、愉快な処にしたく思います。 気取って、金縁の椅子等を置いたのではなく、大きなやや古風なファイア・プレースでもあり、埋まってしまうような大椅子、長椅・・・ 宮本百合子 「書斎を中心にした家」
・・・ それは真個のおしゃれが低い意味での技巧で追つかないと同じで、心のおしゃれも、生々した感受性や、感じたものを細やかにしっとりと味わって身につけてゆく力や、心の波を周囲への理解の中で而もたっぷり表現してゆく力や、そう云うものの磨かれて・・・ 宮本百合子 「女性の生活態度」
出典:青空文庫