・・・ 二「伸子」が書かれたのは一九二四年―六年のことであった。続篇を書きたいと思いはじめた三〇年のはじめから、断片的な試みがされたが、当時の条件がそれを困難にした。やっと一九四六年の初冬から、はっきり「伸子」に・・・ 宮本百合子 「心に疼く欲求がある」
・・・世界で一番いい妻になって、一番いい母になって、そして石や青銅で美しい像をつくって、世界の果まで旅行して、ああ私はありとあらゆることがしてみたいという溢れるような彼女の性格は、その土台が真摯な、ひたむきな素朴さ、純粋さにおかれていて、どことな・・・ 宮本百合子 「『この心の誇り』」
・・・元来シェストフの不安と云われるものは理性への執拗な抗議、すべて自明とされるものに対する絶望的な否定に立って、現実に怒り、自由に真摯な探求を欲することを彼の虚無の思想の色どりとしているのであるから、不安を脱出しようという精神発展の要因は含まれ・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・「伸子」の或る部分に。「播州平野」の或る部分に。それぞれ、日本の歴史の波が、この農村の生活そのものをも変化させているその姿において。―― わたしは、いつか、この「貧しき人々の群」の発展したものとして農村の小説が書いてみたい。しんから、ず・・・ 宮本百合子 「作者の言葉(『貧しき人々の群』)」
・・・ 戦争中の日本の文化殺戮の実状や、日本の文化人が歴史的に自主性を欠いていることについての反省は、日本の近代史の見直しと共に真摯な課題となって来ている。日本の作家のおくれている状態は市民精神に於ておくれたまま、文学は神聖な超俗的な仕事・・・ 宮本百合子 「作家への新風」
・・・ 人及び女性としてのその真摯な希望は、強烈な何ものかを内部に蔵していたこの一人の私たちの尊敬すべき先輩の今日の上に、どんな花をさかせているのだろうか。 大正の中頃からのちの激しい時代のうつりかわりと、その間に転変した女性一般の生活の・・・ 宮本百合子 「時代と人々」
・・・この作者が歴史の進歩的な面への共感によって生きようとしている限り、よしんば偶然によって貯蓄された経験であろうとも、真摯な芸術化の過程を通じて真に作者を発展せしめる社会的な必然の内容となし得るのであるから。真の収穫はいわばこれからともいい得る・・・ 宮本百合子 「十月の文芸時評」
・・・寿江子の靴下プランタンへ買いにゆくやぶれたのをはいて 伸子 マッフラー止め二ケ 手帖 スエ子靴下 マデレーヌのうしろの店でトーモロコシを買う8F 四本で電車でかえる。日没美しいcaf を一・・・ 宮本百合子 「「道標」創作メモ」
「道標」は、「伸子」から出発している「二つの庭」の続篇として、一九四七年の秋から『展望』誌上にかきはじめた。第一部、第二部、第三部とずっと『展望』にのせつづけて一九五〇年十月二十五日に、ひとまず三つの部分をおわった。 一・・・ 宮本百合子 「「道標」を書き終えて」
・・・長篇「伸子」の第一部「聴き分けられぬ跫音」を書き、『改造』へのせた。一九二五年「伸子」を三、四度にくぎって『改造』へ連載。他に「吠える」「長崎紀行」「白い翼」などを書いた。一九二六年「伸子」完結。「一・・・ 宮本百合子 「年譜」
出典:青空文庫