・・・女将は、彼等に身上話をきかせ、その中で、十九年前仲居をしていたとき一人の男を世話され、間もなくその男の児と二人放られて今日まで血の涙の辛苦で一人立ちして来たと、賢女伝を創作した。「女ほど詰らんもんおへんな、ちょっとええ目させて貰たと思た・・・ 宮本百合子 「高台寺」
・・・土地を皆に分け取りにして、取った土地で稼げば稼いだだけ自分の身上を肥やしてゆけるようになるのだとカン違いしていた。社会化した土地の利用ということの代りに、今度は自分達が地主となって元の地主からとった土地を分け合えるものと、旧い私有財産制に毒・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェトの芸術」
・・・過労するな、過労するなが信条ですが、過労せぬということは仕事をよく塩梅することなのだから 着々とやるだけはやって居ります。 今は風邪で ズコズコですが、これは大したものではありません。どうか御安心下さい。 十一月十一日 〔市ヶ谷・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・という一九三六年の声明に絶えずうなされながら猶且つ一般の国民の祖国を愛する真情に対しては第五列の意味をもっているケリリスの活動やドーデの活躍に余地を与えなければならなかった原因は、フランス経済・政治のどんな紛乱からであったかという事実までを・・・ 宮本百合子 「今日の生活と文化の問題」
・・・ この頃新聞雑誌の上で、身上相談が大流行であるが、かつて私は非常にわれわれに多くのことを考えさせる一つの相談と解答とをある新聞の上でみたことがある。十八九の青年が投書しているのだが、自分は何とかして東京に出たい。村の生活は年寄たちが・・・ 宮本百合子 「今日の文化の諸問題」
・・・ 例えば青野氏が真情をこめて「小説というものは、作家の誠実な生命と結びついたもので、その意味では容易に生み出されるものでなく」と云われる場合、モチーフの健全で真正直な理解なしに、作家はどこから自分の作品への血脈を見出して来ることが出来よ・・・ 宮本百合子 「作家に語りかける言葉」
・・・という自分の精神に従って「何らの表裏も手加減もなく真情を傾けてソヴェトを語り」そのことによってソヴェトにより多く貢献し、更に「ソヴェトよりもっと重大な」人類の運命と文化とのために貢献しようと決心したように見えるのである。 序言で、ジイド・・・ 宮本百合子 「ジイドとそのソヴェト旅行記」
・・・の詩に女の真情的なもので同じ現象が見られていると思う。女にはしかしその時期の間に少くとも年輪は一個ふえた事実が感じられているのは意味ふかいことである。 すべての詩を愛す女のひとたち、あらゆる文学の仕事を愛しそ・・・ 宮本百合子 「『静かなる愛』と『諸国の天女』」
・・・文学に健全さが求められているならば、先ず文学そのものの存在が平明にその自然さで真情的な位置におかれて扱われなくてはならないのではないだろうか。このことは旧い用語での芸術至上の考えかたとは別である。 文学について、じっくりと生活に根ざし、・・・ 宮本百合子 「実感への求め」
・・・ トルストイアンと称する連中にとりかこまれ、無抵抗主義の信条で、全財産を放棄したがっているトルストイの希望に、怯え、憎悪し、それとの闘争に立ち向った第一の人は夫人ソフィヤと五男のアンドレイであった。ソフィヤ夫人は、子供等に対する家庭の父・・・ 宮本百合子 「ジャンの物語」
出典:青空文庫