・・・そのムキなところが、新鮮なのである。書生劇みたいな粗雑なところもある。学芸会みたいな稚拙なところもある。けれども、なんだか、ムキである。あの映画には、いままでの日本の映画に無かった清潔な新しさがあった。いやらしい「芸術的」な装飾をつい失念し・・・ 太宰治 「芸術ぎらい」
・・・物慾皆無にして、諸道具への愛着の念を断ち切り涼しく過し居れる人と、形はやや相似たれども、その心境の深浅の差は、まさに千尋なり。十四、わが身にとりて忌むもの多し。犬、蛇、毛虫、このごろのまた蠅のうるさき事よ。ほら吹き、最もきらい也。十・・・ 太宰治 「花吹雪」
・・・早朝、練兵場の草原を踏みわけて行くと、草の香も新鮮で、朝露が足をぬらして冷や冷やして、心が豁然とひらけ、ひとりで笑い出したくなるくらいである、という家内の話であった。私は暑熱をいい申しわけにして、仕事を怠けていて、退屈していた時であったから・・・ 太宰治 「美少女」
・・・景色が好いの、空気が新鮮だのと云うのは言いわけで、実は外の楽しみの出来ない土地へ行っただけである。こんな風で休暇は立ってしまった。そして存外物入りは少かった。 夏もいつか過ぎて、秋の雨が降り出した。ドリスはまた毎日ウィインへ出る。面白い・・・ 著:ダビットヤーコプ・ユリウス 訳:森鴎外 「世界漫遊」
・・・けれど新鮮な空気がある、日の光がある、雲がある、山がある、――すさまじい声が急に耳に入ったので、立ち留まってかれはそっちを見た。さっきの汽車がまだあそこにいる。釜のない煙筒のない長い汽車を、支那苦力が幾百人となく寄ってたかって、ちょうど蟻が・・・ 田山花袋 「一兵卒」
・・・山頂近く、紺青と紫とに染められた岩の割目を綴るわずかの紅葉はもう真紅に色づいているが、少し下がった水準ではまだようやく色づき初めたほどであり、ずっと下の方はただ深浅さまざまの緑に染め分けられ、ほんのところどころに何かの黄葉を点綴しているだけ・・・ 寺田寅彦 「雨の上高地」
・・・ヴェ・シュクロフスキイ、シナリオはいかに書くべきか(本間七郎。 セルディス、トオキイと映画芸術(高原富士郎。佐々木能理男・飯島正、前衛映画芸術論。映画科学研究、第八輯。新撰映画脚本集、下巻。以上ただ手に触れるに任せて・・・ 寺田寅彦 「映画芸術」
・・・あまりにも複雑な機巧に満ちたこの大曲に盛りつぶされ疲らされたすぐあとであったので、この単純なしかし新鮮なフィルムの音楽がいっそうおもしろく聞かれたのかもしれない。そうしてその翌晩はまた満州から放送のラジオで奉天の女学生の唱歌というのを聞いた・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・はいかにも明るく新鮮である。この目立った差別には、写真レンズやフィルムの光学的化学的な技術の差から来るものもないとは言われないが、しかしなんといっても国民性の相違から来る根本的なものがすべてを支配し決定しているとしか思われない。このアメリカ・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(4[#「4」はローマ数字、1-13-24])」
・・・ 十一 電話新選組 一種の探偵映画である。こうしたアメリカ映画では何かしら新しい趣向をして観客のどぎもを抜こうという意図が見られる。この映画では電話局の故障修繕工夫が主人公になっている。それが友だちと二人で悪漢の銀行・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(4[#「4」はローマ数字、1-13-24])」
出典:青空文庫