・・・この事実から考えると最初に出るあの多量の水蒸気は主として火口の表層に含まれていた水から生じたもので、爆発の原動力をなしたと思われる深層からのガスは案外水分の少ないものではないかという疑いが起こった。しかしこれはもっとよく研究してみなければほ・・・ 寺田寅彦 「小爆発二件」
・・・しかし昨朝八丈島沖に相当な深層地震があったのでそれで帳消しになったのかもしれない。あの日は津田君の「出雲崎の女」が問題になっていて、喫茶室で同君からそのゆきさつの物語を聞いているうちに震り出したのであった。その津田君は今年はもう二科には居な・・・ 寺田寅彦 「二科展院展急行瞥見記」
・・・そうして大旱に逢った時に、深層の水分を取ることが出来なくなって、枯死してしまう。 少し唐突な話ではあるが、これと同じように、目前の利用のみを目当てにするような、いわゆる職業的の科学教育は結局基礎科学の根を枯死させることになりはしないか。・・・ 寺田寅彦 「鑢屑」
・・・人生社会の真相を透視する道も亦同情の外はない。観察の公平無私ならんことを希うのあまり、強いて冷静の態度を把持することは、却て臆断の過に陥りやすい。僕等は宗教家でもなければ道徳家でもない。人物を看るに当って必しも善悪邪正の判決を求めるものでは・・・ 永井荷風 「申訳」
・・・新らしい波はとにかく、今しがたようやくの思で脱却した旧い波の特質やら真相やらも弁えるひまのないうちにもう棄てなければならなくなってしまった。食膳に向って皿の数を味い尽すどころか元来どんな御馳走が出たかハッキリと眼に映じない前にもう膳を引いて・・・ 夏目漱石 「現代日本の開化」
・・・ただこういうあさましいところのあるのも人間本来の真相だと自分でも首肯き他にも合点させるのを特色としている。この二つの文学を詳しく説明すればそれだけで大分時間が経ちますから、まあ誰も知っているぐらいの説明で御免を蒙って、この二つの文学が前の二・・・ 夏目漱石 「文芸と道徳」
・・・しかしその面白いと云うのは、やはりある境遇にあるものが、ある境遇に移ると、それ相応な事をやると云う真相を、臆面なく書いた所にあるのでしょう。しかしこの面白味は、前の唖の話と違って、ただ真を発揮したばかりではない。他の理想を打ち壊しています。・・・ 夏目漱石 「文芸の哲学的基礎」
・・・静かに心を落付ながら、私は今一度目をひらいて、事実の真相を眺め返した。その時もはや、あの不可解な猫の姿は、私の視覚から消えてしまった。町には何の異常もなく、窓はがらんとして口を開けていた。往来には何事もなく、退屈の道路が白っちゃけてた。猫の・・・ 萩原朔太郎 「猫町」
・・・本社はさらに深く事件の真相を探知の上、大いにはりがねせい、ねずみとり氏に筆誅を加えんと欲す。と。ははは、ふん、これはもう疑いもない。ツェのやつめ、ねずみとりに食われたんだ。おもしろい。そのつぎはと。なんだ、ええと、新任ねずみ会議員テ氏。エヘ・・・ 宮沢賢治 「クねずみ」
・・・三月八日の婦人の日が、一部のひとの策動だなどと宣伝されることの真相は、おのずからあきらかとなりました。戦争で世界をかきまわそうとする人々は、世界の人民が平和のために結集することをいつもおそれ、憎悪します。おくれた国々とされていたアジアの諸民・・・ 宮本百合子 「国際婦人デーへのメッセージ」
出典:青空文庫