・・・もちろん烈震の際の危険は充分に分っているが、いかなる震度の時にいかなる場所にいかなる程度の危険があるかということの概念がはっきりしてしまえば、無用な恐怖と狼狽との代りに、それぞれの場合に対する臨機の所置ということがすぐに頭の中を占領してしま・・・ 寺田寅彦 「家庭の人へ」
・・・またいわゆる震度の分布という問題についても地質学上の見地から見ればいわゆる「地盤」という事をただ地質学的の意味にのみ解釈する事は勿論の事である。 第四には物理学者の見た地震というものがる。この方の専門的な立場から見れば、地震というものは・・・ 寺田寅彦 「地震雑感」
・・・それと同時に進行速度がだんだんに大きくなり中心の深度が増して来た。二十一日の早朝に中心が室戸岬附近に上陸する頃には颱風として可能な発達の極度に近いと思わるる深度に達して室戸岬測候所の観測簿に六八四・〇ミリという今まで知られた最低の海面気圧の・・・ 寺田寅彦 「颱風雑俎」
・・・ところが午後六時にはこの低気圧はさらに深度を強めて北上し、ちょうど札幌の真西あたりの見当の日本海のまん中に来てその威力をたくましくしていた。そのために東北地方から北海道南部は一般に南西がかった雪交じりの烈風が吹きつのり、函館では南々西秒速十・・・ 寺田寅彦 「函館の大火について」
・・・ 私の周囲にそのくらいの深度の記憶を持った人々は多くあると思います。その中から、幾人ずつか一年のうちに死去せられるのも事実です。けれども、それ等の場合、私の胸に湧いたものは、決して今度経験したようなものではありませんでした。 或る時・・・ 宮本百合子 「偶感一語」
・・・現実の一断面を作品にするとき、或る気分で貫いてまとめるという在来の手法は、手近なかわり作品のリアリスティックな深度や規模を一定の範囲にとどめがちであるということは、映画も文学も同じであろう。文芸映画とその観客の層との生きた関係でみると観客そ・・・ 宮本百合子 「観る人・観せられる人」
・・・この平凡な確実なことは、子のないときには理解ができても洞察の度合においてはるかに深度が違ってくる。この深度は作家の作品に影響しないはずがない。宇野浩二氏の『子の来歴』に一番打たれた人々も子のない人に多いのは、観賞に際してもあまりに曇りがなか・・・ 横光利一 「作家の生活」
出典:青空文庫