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・・・ 深夜の鏡にチラリとうつる自分の顔は、気味がわるくて、ちゃんと視たことがない。真夜中、おなかが空いて、茶の間へおりて来ると左手に丁度鏡があって、廊下からのぼんやりした光りで、その鈍く光る面をチラリと自分の横顔が掠める。それは自分の顔・・・
宮本百合子
「顔を語る」
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・・・――この時からナポレオンの奇怪な哄笑は深夜の部屋の中で人知れず始められた。 彼の田虫の活動はナポレオンの全身を戦慄させた。その活動の最高頂は常に深夜に定っていた。彼の肉体が毛布の中で自身の温度のために膨張する。彼の田虫は分裂する。彼の爪・・・
横光利一
「ナポレオンと田虫」