われわれのように地球物理学関係の研究に従事しているものが国々の神話などを読む場合に一番気のつくことは、それらの説話の中にその国々の気候風土の特徴が濃厚に印銘されており浸潤していることである。たとえばスカンディナヴィアの神話・・・ 寺田寅彦 「神話と地球物理学」
・・・そうしてさらにまた山幸彦・海幸彦の神話で象徴されているような海陸生活の接触混合が大八州国の住民の対自然観を多彩にし豊富にしたことは疑いもないことである。 以上述べきたったような日本の自然の特異性またそれによって規約された日本人の日常生活・・・ 寺田寅彦 「日本人の自然観」
・・・またガニミード神話の反映をガンダラのある彫刻に求めたある学者の考えでは、鷲がガルダに化けた事になっている。そしておもしろい事にはその彫刻に現わされたガルダの顔かたちが、わが国の天狗大和尚の顔によほど似たところがあり、また一方ではジャ・・・ 寺田寅彦 「化け物の進化」
・・・ 自分のまだ学生時代に、ある学者が、日本の神話の舞台をギリシア近辺へ持って行こうとする大胆な説を公にして問題になった事がある。自分は直接にその所説の全部を読んだわけではなかったが、その説の一部をどこかで瞥見して、いろいろその所説に対する・・・ 寺田寅彦 「比較言語学における統計的研究法の可能性について」
・・・理智はすべてを常識化し、神話に通俗の解説をする。しかも宇宙の隠れた意味は、常に通俗以上である。だからすべての哲学者は、彼らの窮理の最後に来て、いつも詩人の前に兜を脱いでる。詩人の直覚する超常識の宇宙だけが、真のメタフィジックの実在なのだ。・・・ 萩原朔太郎 「猫町」
・・・もとよりこの二流は、はじめより元素を殊にするものなれば、とうてい親和抱合すべからざるものと思わるれども、人事紛紜の際には思のほかなる異像を現出するものなり。近くその一例を示さん。 旧幕府の末年に、天下有志の士と唱うる人物の内には、真に攘・・・ 福沢諭吉 「学者安心論」
・・・これはギリシア神話の中のアナキネという話の物語にでも推察される。アナキネは大変美しく可愛い娘で、織物を織ることが上手であった。みごとな織物をする上に美しいものだからオリムパスの神々の間にさえ大評判になった。神々の首領であったジュピターはその・・・ 宮本百合子 「衣服と婦人の生活」
・・・文学としてのギリシャ神話は宇宙の壮大と美麗と威力とへの関心を当時の都市の形成を反映している神とその人間ぽい生活感情で形象していて面白い。イギリスの十九世紀初頭の詩人画家であったウィリアム・ブレークが、独特な水色や紅の彩色で森厳に描いた人格化・・・ 宮本百合子 「科学の常識のため」
・・・あなたは一人の母として、三人の小さい者たちとともに宵に寝、早朝におきつつ、童話・神話の世界から漸次より社会的な主題へと発展されました。この点も、婦人作家として、特徴的な経歴です。日本の社会的事情は、あなたのような程度の教養的環境と理解との中・・・ 宮本百合子 「含蓄ある歳月」
・・・ かえりみれば、これまで私たち日本人が教えこまれていた日本の歴史は、むきになって強調されていた上代の神話と、後代の内国戦の物語、近代日本の支那・ロシア・朝鮮・満州などにおける侵略戦争とその植民地化との物語であった。その時代時代の軍事上の・・・ 宮本百合子 「『くにのあゆみ』について」
出典:青空文庫