・・・の機械の指示する示度を機械的に読み取って時々手帳に記入し、それ以外の現象はどんな事があっても目をふさいで見ないことにする流儀の研究ではなんの早わざもいらない、これには何も人間でなくてもロボットもしくは自記装置を使えばすむことである。しかしこ・・・ 寺田寅彦 「空想日録」
・・・ 次に上の仮想的の場合において現象の発生する時期がある程度まで知られたりと仮定せよ。この場合に起る地震の強弱の度を如何ほどまで予知し得べきか。単に糸を引き切る場合ならば簡単なれども、地殻のごとき場合には破壊の起り方には種々の等級あるべし・・・ 寺田寅彦 「自然現象の予報」
・・・彼の地における各時季の気温や、風向、晴雨日の割合などは勿論、些細な点についても知識の有無に従ってその方面の準備の有無は意外の結果を来たすであろうと考えられる。 寺田寅彦 「戦争と気象学」
・・・私は将来いつかは文明の利器が便利よりはむしろ人類の精神的幸福を第一の目的として発明され改良される時機が到着する事を望みかつ信ずる。その手始めとして格好なものの一つは蓄音機であろう。 もしこの私の空想が到底実現される見込みがないという事に・・・ 寺田寅彦 「蓄音機」
・・・ 何人も疑う所のない点を疑う人は知識界に一時機を画する人である。 一人にしてその二を兼ぬる人ははなはだまれである、これを具備した人にして始めて碩学の名を冠するに足らんか。 寺田寅彦 「知と疑い」
・・・悲観する人はここに至って自棄する。微分を知っていっさいを知らざれば知るもなんのかいあらんやと言って学問をあざけり学者をののしる。 人間とは一つの微分である。しかし人知のきわめうる微分は人間にとっては無限大なるものである。一塊の遊星は宇宙・・・ 寺田寅彦 「知と疑い」
・・・ やはり農家の暇な時季を選んだものだろう。儀式は刈り株の残った冬田の上で行なわれた。そこに神輿が渡御になる。それに従う村じゅうの家々の代表者はみんな裃を着て、傘ほどに大きな菅笠のようなものをかぶっていた。そして左の手に小さな鉦をさげて右・・・ 寺田寅彦 「田園雑感」
・・・プロバビリティの問題、エントロピーの時計の用途は存外に広いという事を思い出すに格好な時機ではあるまいか。 時。エントロピー。プロバビリティ。この三つは三つ巴のようにつながった謎の三位一体である。この謎の解かれる未来は予期し難いが、これを・・・ 寺田寅彦 「時の観念とエントロピーならびにプロバビリティ」
・・・大掃除のときなどに縁側に取り出されているこの銅の虎を見るたびに当時の記憶が繰り返される。大掃除の時季がちょうどこの思い出の時候に相当するのである。 S軒のB教授の部屋の入り口の内側の柱に土佐特産の尾長鶏の着色写真をあしらった柱暦のような・・・ 寺田寅彦 「B教授の死」
・・・というのでも、実は地球の重力のみ働き空気の抵抗や電気磁気などの作用がないとした場合の事である。しかるに実際物体を落す場合に完全な真空で完全に他の力を除外して実験する事はなかなか面倒である。実際重力加速度gを定めるにはこのような直接の方法によ・・・ 寺田寅彦 「物理学実験の教授について」
出典:青空文庫