・・・金の魚虎は墺国の博覧会に舁つぎ出したれども、自国の金星の日食に、一人の天文学者なしとは不外聞ならずや。 また、外国の交際においても、字義を広くしてこれを論ずれば、霞が関の外務省のみをもって交際の場所と思うべからず。ひとたび国を開きてより・・・ 福沢諭吉 「学者安心論」
・・・国の権を争い人の利を貪ぼるは、他なし、自国自身の平安を欲する者なり。 また、物を盗み人を殺す者といえども、自から利して自己の平安幸福をいたさんと欲するにすぎず。盗んでこれを匿し、殺して遁逃するは何ぞや。他の平安幸福をば害すれども、おのず・・・ 福沢諭吉 「教育の目的」
・・・しかのみならず、この法外の輩が、たがいにその貧困を救助して仁恵を施し、その盗みたる銭物を分つに公平の義を主とし、その先輩の巨魁に仕えて礼をつくし、窃盗を働くに智術をきわめ、会同・離散の時刻に約を違えざる等、その局処についてこれをみれば、仁義・・・ 福沢諭吉 「教育の目的」
・・・とて、自国を重んずるの念、はなはだ薄きに似たれども、かつて譏を受けたることなきのみならず、かえって聖人の賛誉を得たり。これに反して日本においては士人の去就はなはだ厳なり。「忠臣二君に仕えず、貞婦両夫に見えず」とは、ほとんど下等社会にまで通用・・・ 福沢諭吉 「徳育如何」
・・・その虚実、要不要の論はしばらく擱き、我が日本国人が外国交際を重んじてこれを等閑に附せず、我が力のあらん限りを尽して、以て自国の体面を張らんとするの精神は誠に明白にして、その愛国の衷情、実際の事跡に現われたるものというべし。 然るに、我輩・・・ 福沢諭吉 「日本男子論」
・・・ 左れば自国の衰頽に際し、敵に対して固より勝算なき場合にても、千辛万苦、力のあらん限りを尽し、いよいよ勝敗の極に至りて始めて和を講ずるか、もしくは死を決するは立国の公道にして、国民が国に報ずるの義務と称すべきものなり。すなわち俗にいう瘠・・・ 福沢諭吉 「瘠我慢の説」
・・・嘉吉は朝いつもの時刻に眼をさましてから寝そべったまま煙草を二、三服ふかしてまたすうすう眠ってしまった。 この一年に二日しかない恐らくは太陽からも許されそうな休みの日を外では鳥が針のように啼き日光がしんしんと降った。嘉吉がもうひる近いから・・・ 宮沢賢治 「十六日」
・・・同時に、自国の権力が与えるめかくしも、拒絶すべき時期だと思う。偏見のない人民こそは、最もあざむきにくい民である。 第九巻には、主としてソヴェトの文化・文学の問題が集められ、十八年前にかかれたソヴェト生活のレポートは、きょうはじめてややま・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第八巻)」
去る十二月十九日午後一時半から二時の間に、品川に住む二十六歳の母親が、二つの男の子の手をひき、生れて一ヵ月たったばかりの赤ちゃんをおんぶして、山の手電車にのった。その時刻にもかかわらず、省線は猛烈にこんで全く身動きも出来ず・・・ 宮本百合子 「石を投ぐるもの」
・・・ ところが、昨今の日本の文化は、自国の社会生活の破壊の色どりである売笑現象に対して、奇妙に歪んだ態度で向っている。映画に軽演劇に登場する夜の女の英雄扱いはどうだろう。ある婦人雑誌では某作家が横浜の特殊な病院へ入院中の夜の娘たちを訪問して・・・ 宮本百合子 「偽りのない文化を」
出典:青空文庫